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D兄弟。てか兄。フーシャ村で撃沈(アタシが)

「シャンクスはマキノのことが好きなのか?」
 オムライスを頬張っていた少年にそう言われて、若く美しい女主人は珈琲を入れる手を止めた。
「え?」
 赤髪の船が出港してからもう大分経つ。予定ではそろそろ戻って来るはずだ。
「どうしたの?急にそんなこと」
「だってシャンクスはいつもマキノはいい女だって言ってるぞ」
 ルフィの言葉に女主人はクスッと笑った。
「マキノが綺麗なのはホントのことだし、それにそんなのみんな言ってるだろ。シャンクスだけじゃねえよ」
 ルフィの隣に座っていたエースが少し怒ったようにそう言った。
「あら、ありがと、エース」
 クスクスと笑いながら二人の前にジュースのグラスを置いてやる。
「でもシャンクスはいつもマキノにお土産持ってくるだろ?綺麗な宝石とかさ」
「俺たちだって貰ってる」
「でもさ……でも、好きじゃなきゃ持ってこないよ」
 ルフィは自分の少ない語彙の中では上手く説明できないらしい。だがマキノもエースもルフィが言いたいことはなんとなく判った。
「そうねえ、嫌われてはいないと思うけど」
「じゃあ好きなんだな、やっぱり」
 ルフィは納得したように一人でうんうんと頷いた。
「マキノはシャンクスと結婚すればいいんだ」
 途端に弾かれたようにマキノが笑い出した。
「バカッ!」
 エースがルフィをポカリと殴った。
「マキノはあのオッサンには勿体ねえ!」
 エースの言葉にマキノは更に笑い出す。
「あのね、ルフィ」
 おかしくて仕方ない、と言うようにマキノが言う。
「船長さんが私にお土産を持ってきてくれるのは、御礼みたいなものなのよ」
「お礼?」
「ええ。船が港に着いたら、船のみんなは此処に来るでしょう?お酒もたくさん飲むから、たまにグラスや椅子が壊れたりしてしまうの。もちろん其の分のお金はちゃんと置いて行ってくれるけど、新しいグラスを買ったりする手間が掛かるからって、そういうことなのよ」
 優しくマキノが説明する。それでもルフィはどこか納得できないようだった。
「マキノはシャンクスが好きじゃない?」
「もちろん、大好きよ。ルフィやエースのことを好きなようにね」
「だったらさ……」
「ルフィ!」
 ガタン、とエースが立ち上がった。
「帰るぞっ。マキノ、ご馳走様っ」
 ルフィのシャツを掴んで引っ張っていくエースを見て、マキノはほんの少しだけ困ったように微笑んだ。
確かに、シャンクスは店に来ればマキノに対して口説き文句を言ってくる。幼いルフィにしてみれば、大人の男が大人の女の手を握って囁くだけで、プロポーズでもしているかのように見えるのかもしれない。
 でも、海賊の口説き文句を本気にするほど、マキノは子供ではない。
 ルフィの言葉は「自分が大好きな人同士が結婚すればいいのに」そんな単純な考えから始まった発言なのだろう。ルフィの中の「好き」と言う言葉にはまだ区別が無い。
 エースは、ルフィよりも少し大人な分だけ、シャンクスがマキノに対して本気で口説いているわけではないことは判っている。それが判っているからこそ、エースはシャンクスに反発しているのだろう。生真面目な子だ。リップサービスとか、言葉の遊びとか、そんなことまでわかる程にはまだ大人ではない。
 綺麗に食べ終えてある二枚の皿を片付けながら、マキノはいつの日か、あの二人も女性に甘い言葉を囁く日が来るのかしら、と胸に甘い痛みを感じていた。

 ルフィを引きずって歩きながら、エースは腹が立って仕方なかった。
 本気じゃないくせにマキノを口説くシャンクスも、何も知らずに結婚などと口にするルフィも、シャンクスの口説き文句を笑いながら聞いているマキノも。
「痛いよ、エース」
 ジタバタと暴れるルフィを放してやり、エースは家まで走って帰った。
「エース?」
 ベッドに倒れこんだエースを、ルフィが心配そうに見に来る。
「……エースはシャンクスが嫌いなのか?」
「……嫌いだ。あんな、いい加減なヤツ」
 ルフィはベッドによじ登り、エースの背中に抱きついた。
「ルフィ」
「ん?」
「シャンクスは、海の男だ。この村にだって殆ど居ないし、いずれは来なくなっちまう」
「……うん」
「だから、結婚とか、そんなことマキノに言うな」
 エースは向きを変えて、ルフィをギュッと抱き締めた。
「二度と言うな」
「……うん」
 




 エースが村の女の子に告白されている現場に居合わせてしまった。
 エースよりも一つ年上のその娘は、美人で頭が良く、働き者だと評判の酒屋の娘だ。
 ルフィが昼寝をしていた木の下で、その娘はエースに好きだと言った。
 バカな娘だな、とルフィは思った。
 来年になったらエースはこの村を出て海賊になる。
「ごめんな」
 優しくそう答えたエースの声。
 何故謝る?勝手に好きになった女に謝る必要なんてないだろうに。
 自分は海に出るから、とエースは言った。
 じゃあ海に出ないなら付き合うのかよ。好きじゃないから付き合えないと言えばいいのに。
 意地の悪い目で二人を見下ろしていたら、酒屋の娘は言った。
 だったら一緒に行くわ。
 その時のエースの顔ッたらない。
 ルフィは噴出しそうになるのを必死で抑えなくてはならなかったぐらいだ。
「は?」
「私も一緒に行くわ。連れて行って」
 エースはその時初めて、ほんの少しだけ感情を表に出した。
「何か勘違いしてないか?」
 エースの抑えた声にルフィはギュッと幹を掴んだ手に力を入れた。
 そうだ、言ってやれ。
「俺は海軍には行かないよ」
 子供の頃から海賊になると言って回っているルフィと違って、エースは海に出るとは言っているが、海賊になるとは言っていなかった。礼儀正しいエースは祖父の意思を尊重して海軍学校に行くと思っている村人が多い。
 はっきりとエースの口から海賊になると聞いているのはルフィだけだ。
「俺は、海賊になる」
 それでもついて来る?とエースは笑った。
 黙ってしまった娘を置いて、エースはさっさと歩き出そうとした。
「行くわ」
「……」
「エースと一緒に居たいのよ。海の上だって我慢できるわ」
 振り返ったエースの顔を見て、ルフィは背中がゾクゾクと震えるのを感じた。
「我慢?」
 侮蔑と怒りのない交ぜになったエースの顔。
「俺たちの夢を邪魔するな」
 足手まといだ。
 娘は唇を震わせ、俯いて走り去って行った。
 泣いているのだろう。
「……ルフィ、降りて来いよ」
 声をかけられて、ルフィは木の上からひょいと飛び降りた。
「何笑ってんだ?」
「だってよ……お、面白ぇんだもん、アイツ」
 エースは酒樽を肩に担いでいた。マキノに頼まれたのだろう。ここ一年ほどでエースの背は随分伸びた。Tシャツから出た二の腕にはしっかりと筋肉が付き、少年から青年へと着実に姿を変えている。
「マキノんとこ行くのか?」
「ああ」
 エースの後を付いてきながら、ルフィはかなりご機嫌だった。手に持った枝をブンブンと振り回しながら歩いている。
「付き合ってやればよかったのに」
「何言ってんだ、お前」
「まだ後一年あるし」
「……ルフィ」
 少し怒ったようなエースの声に、クククッとルフィは笑った。
「俺、エースのそういうトコすっげぇ好きだぞ」
 麦藁帽子の下から覗く、まだ子供の顔付きに、エースはため息を吐いた。
 ルフィはポイッと枝を道に放り投げ、「飯ッ!」と叫びながら店の中に入って行った。
 エースは樽を店の裏に置き、中に入る。
「ただいま」
「お帰りなさい。助かったわ、エース」
 にっこりと笑って迎えてくれた女主人の笑顔は変わらない。相変わらず美しい。
 村の人間が何人も彼女に結婚を申し込んだことをエースは知っている。だが彼女は決して首を縦には振らなかった。
 ご苦労様、とジュースを出してくれた彼女の手には、小さな宝石のついた指輪がある。
「なぁなぁ、マキノッ!」
「なぁに?」
「エースがついに人前で言ったぞ」
「あら、何を?」
「海賊になるって!」
 マキノはまあ、と目を見開き、それから嬉しそうに笑った。
「ガープさんと本格的に喧嘩になるわねぇ」
「「うっ……」」
 思わず固まった二人の前に、マキノはクスクスと笑いながら大盛りのオムライスを置いてくれた。
「じゃ、たくさん食べて体力つけなくっちゃね」
 エースはマキノの白くほっそりとした指を見ながら、どうして彼女はこんな風に笑えるのだろうと思った。
 指につけた小さな指輪には何の約束も無い。
 二度と戻ることの無い男に心を奪われながら、それでもマキノは明るく笑う。
「嬉しそうだな、マキノ」
「ええ、嬉しいわ」
 寂しくなるけど、嬉しいのよ。
「大好きな人が夢に向かって旅立つのよ。嬉しくないわけないでしょう?」
 ほんの一瞬、マキノの指が指輪に触れた。
「素敵だわ、とても」
「……マキノは、いい女だなぁ」
 思わず口を吐いて出た言葉を聞いて、マキノは目を丸くした。
「ふふっ……随分前に、聞いた口説き文句ね」
「え?あ、いや……」
 口説いたつもりではなかったのだけれど。
 思わず俯く。耳が酷く熱かった。
「ししししっ。エースはマキノのことが好きなのか」
 ルフィがニッと笑った。
「……ああ、好きだよ」
 エースもニヤッと笑う。
「あら、ま」
「俺も好きだぞっ!」
 ブンッとスプーンを振り回したルフィに、マキノがクスクスと笑った。
「私も大好きよ、二人とも」
 


 夜、ベッドに入ってきたルフィと手を繋いで眠った。
「エース」
「ん?」
「俺もエースのこと、好きだぞ」
「……ああ」
 好きだとは、返さない。
 ルフィもいずれ海に出る。
 同じ海の上に。
 だから、好きだとは返さない。
「知ってるさ」

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