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副シャン前提でシャンA

一週間ほど前に潰した船の船倉にあった独房には、赤髪の海賊たちに興味を抱かせるものはなかったのだが、たまたま気まぐれに船倉に下りてきていた船長の目に、拘束具としては妙に華奢な手錠が映った。なんだこりゃ、と近くに居た若手に訊いてみれば、対能力者用の拘束具だという。そういえば、敵船の海賊の中に能力者が混じっていたな、と思い出す。自船の船長に忠誠心を持っていなかったらしいその海賊は、自分たちの船が落ちるのを見るや否や、生き残った数人の仲間たちと一緒に小船で逃げ出してしまった。
 赤髪の船には能力者は乗っていないし、例え乗っていたとしても赤髪海賊団の幹部の性格からしてこんなものを使うようなことは絶対に無い。故に、そのまま船と一緒に沈めてしまうつもりだったのだが。
「お頭ぁ、どうするんすか?そんなモン?」
 キョトンとした若い海賊にシャンクスが言う。
「俺がコレを持ち出したって、副には言うなよ?」
「はぁ、いいっすけど……」
 そんな細っこい手錠、副船長じゃあ直ぐ壊しちまいますよ?と言われてシャンクスはニタァと笑った。
「いいんだよ、別に」
 手錠をブリーチのポケットにねじ込んで、鼻歌交じりに甲板へと戻っていくシャンクスを若い海賊はポカンとした顔のまま見送った。
「ご機嫌だな」
「ん?」
 自船に戻ってきたシャンクスは背後からかけられた低い声にピタリと動きを止めた。
「なにか気に入ったものでも見つけたのか?」
「別に、大したもんじゃねえよ」
「へぇ……」
 スッと目を細めて自分を見るベックマンに、シャンクスはだっはっは、と笑った。
「それより、今回の稼ぎはどうだった?」
 新世界にまで辿り着いた海賊にしては手ごたえがなかったな、とシャンクスは少し残念そうにそう言った。
「質は悪くねえが、数が少ねえな。そのまま山分けするより換金してから分けたほうがいい」
「ふうん……じゃあ換金できる島に行くか」
 予定ではどこかの無人島でしばらくのんびりしようと言っていたのだが。
「良い酒を仕入れてさ、思いっきり騒ごうじゃねえか、なぁ、ヤロウドモ!」
 シャンクスの呼びかけに海賊たちが歓声を上げる。
 副船長は肩を竦め、黙って煙草に火を点けた。
 

 換金するといっても、海賊から手に入れたお宝には正規ルートでは売れないものが多い。だが大海賊時代と呼ばれるこの時代には海賊がお宝を売るためのルートが存在する。表立って捌けまいと足元を見られることも少なくないが、交渉役の腕次第では正規ルートよりも高く売ることも可能だ。赤髪海賊団では殆どの場合その交渉はベックマンが引き受けることになる。この海賊団のクルーは船長を始め、皆どうにも金勘定に疎いのだ。
 換金のために立ち寄った街は小さな街だったがそれなりに活気もある。ログが溜まるまでには8時間。換金して酒を仕入れるには十分だが、島で騒ぐには少々短い。結果、特に急ぎの用の無いクルーは船で待機することになった。
「アンタも降りるのか?」
 換金するためのお宝を載せたボートに乗り込んできたシャンクスにベックマンが訊ねる。
「ん?ダメか?」
「……出航時間までに戻るなら、構わないが」
 戻らないだろう、と暗に言われてシャンクスがムッとする。
「んだよ、戻りゃぁいいんだろが」
 ホレ、さっさとボート出せ、と小突かれて若い海賊が苦笑しながらオールを動かし始めた。
「言っておくが、アンタが行きたがってる島へのエターナルポースはないんだからな。此処でログを書き換えたら……」
「だーっ!もうっ!判ってるっつうの!ったくウルセエなオマエはっ!」
 プリプリしながらボートを降りたシャンクスはさっさと歩き出しあっという間に姿が見えなくなってしまった。
「ちゃんと戻って来ますかねぇ?」
 ボートから荷を降ろしている若手の呟きにベックマンは肩を竦めた。
 

 五月蝿いお目付け役を振り切ったシャンクスは、早速初めて見る街を見て回っていた。
 もとより、世界中を見て回りたいと海に出た。せっかく寄港したのだから、少しぐらい街を見て回りたいではないか。
 確かに、シャンクスが船に戻らなかったせいで予定していた島へのログを失ったことも何度かあったけれども。
「くっそぉ、副のヤツ、初めっから俺が遅れるって決めてかかってやがる」
 港から街をまっすぐに貫く大通りには、様々な屋台が並んでいた。
 禍々しいほどに赤い髪と左目の三本傷を隠しもせずに歩く。それでも、鼻歌交じりのご機嫌な様子と人好きする笑みのせいか、それほど怖がられることがない。手配書の写真と本人とのあまりの雰囲気の違いに同一人物と思われないことすらある。
「うー、ちと寒いな」
 此処は秋島だ。季節はどうやらもう直ぐ冬を迎えるらしい。雪が降るほどではないようだが、吹き付ける風は冷たい。いつでもブリーチに素足のシャンクスは身体を震わせた。
「んん?」
 ふわりと鼻腔を擽る甘い匂いに釣られて、一軒の屋台を覗く。
「なあ、それなんだ?」
 小柄な老人が白いスープの入った鍋をかき混ぜている。
「一夜酒さね。飲んだことないだか?」
「ヒトヨザケ?酒か?」
 ニッと笑った老人は、コップに其の白い液体を注いでシャンクスに手渡した。
「アチッ…!あっちい……でも美味ぇ!」
「酒っちゅうてもこりゃぁ甘酒ちゅうて、子供でも飲める。酔えやしねえが身体が暖まるだよう」
「へぇぇ……」
「もっと飲むだか?」
「うん、くれ」
 人懐っこく笑いながら空になったコップを差し出すと、老人はうひゃひゃと笑いながら甘酒を注いでくれた。
「美味ぇぞ、じいちゃん!」
「そりゃぁよかったよう」
「ところでじいちゃん、この辺の名物って何だ?」
「名物?こんな島にゃぁんなもんねえけんども、まあ地酒はウメエでなぁ」
 良い米が取れるでよ、と老人はまた笑った。
「だーはっはっは!そりゃぁいい」
 きっと副船長が良い酒を仕入れてくるに違いない。
「それにしてもにいちゃん、そげなカッコで寒くねえだか?」
「ん~、ちっと寒ぃかな」
「風邪ひかねようになぁ。ホレ、も一杯飲むか?」
「おう、飲む……ん?」
 注いで貰った甘酒にフウフウと息を吹きかけていると、何やら背後がやかましい。
「なんだ?」
 暖簾の向こう側からバタバタという足音に混じって「食い逃げだ!」という声が聞こえてくる。
「おんやぁ、珍しいなぁ、こんなちっぽけな島で」
 捕まえてやってもいいのだが、そんな義理もないし、唯一残った腕は今大事な大事な甘酒を持っている。よって、シャンクスはそのまま無視することにした。
「じいちゃんも気をつけ……だあああっ!」
 バタバタと足音が急に近付いたかと思ったら、樽に座ったシャンクスに思い切り何かがぶつかってきた。
「あ、あっちいいいいいいい!!!!」
 甘酒を冷ますことに夢中になっていたシャンクスは突撃されるままに樽から転げ落ち、挙句にだらしなく広げられたシャツの胸元に持っていた甘酒をぶちまけた。流石のシャンクスも悲鳴を上げるほどの熱さだ。
 シャンクスに体当たりしたヤツは、そのままシャンクスの腹に跨っている。
「アチチチッ!バッカヤロウ!なにしやがんだ!」
 図々しくも赤髪のシャンクスの上に居座っている相手を振り落とし怒鳴りつける。
「おわっ、わ、わりいっ!……ん?」
「あ?」
 互いの顔を見合わせて、ピタリと動きを止める。
「……なんでオマエが此処にいんだ?」
「それはこっちの台詞だよ。なんでオッサンがこんな島にいるんだよ!」
 黒髪にテンガロンハットを乗せた見覚えのある青年が、地面にぺたりと座ったままシャンクスを睨みつける。
「アンタ達がこの前居た海域、こっから全然遠いじゃん!」
 それを言ったら、エースとてこの前居たのは遠い海域だったはずだが。
「まあ、何だってイイケドよ、後、大丈夫か?」
 気が付けば、背後に立ちふさがる黒い影。
「あ……シマッタ」
 慌てて逃げようとしたが、追いかけてきた飯屋の主人が素早くエースの腕を掴む。
「このガキッ!やっと捕まえたぞ!」
「あーいやぁ……あっ、こ、このオッサン!このオッサンが金払うからっ!」
 そう言ってエースはシャンクスの後ろに逃げ込んだ。
「へ?」
 グイっと前に押し出されたシャンクスを飯屋の主人が睨みつける。
「オイオイ…なんで俺がオマエの飯代なんざ……」
「頼むよトーチャン!」
「おまっ……!誰がっ……」
「アンタ、このガキの知り合いか?」
「え?ああ、まあ……知りあいっつうか……」
 敵船のクルーなんですけどね。
「こっちとしちゃあ誰が金払ってくれてもかまわねえんだ」
 ズイッと掌を差し出されて、シャンクスはボリボリと頭を掻いた。
「おい、エース」
「ん?なんだ、トーチャン」
「此処はオニイサンが奢ってやろう」
「はぁぁ?オニイサンって誰?」
 四十目前であつかましいにも程があるだろ、と顔を顰める。
「オメエ奢って欲しくねえのか?」
「あ、いやいや。オネガイシマス、オニイチャン」
「ただし、後で一個俺の言う事聞けよ」
「えー……」
エースはあからさまに嫌そうな顔をした。
「オマエ俺に借り作りたくねえんだろ?」
「……」
「よし、契約成立な。おい、オヤジ、幾らだ?」
 シャンクスは飯屋の主人に飯代プラスαの金を支払い、甘酒の屋台のカウンターに料金としては充分すぎる金を置いた。
「じいちゃん、ご馳走さん」
「ああ。またおいでな」
 小柄な老人ににこやかに挨拶し、エースの腕を引いた。
「ホレ、来い」
 不承不承付いてくるエースを横目で見て、シャンクスはニヤッと笑った。
「……なあ、何させる気だよ?」
「あ?何って、ナニだよ。決まってんだろ」
 当たり前のコト聞くんじゃねえよとばかりに鼻で笑われる。
「あっそ……」
 今更拒むような間柄でもないし、それは構わないのだが、『言うことをきけ』と言うのがいささか気になる。
「こんな真昼間からヤんの?」
「オマエそんなもん気にしたことねえだろうが」
 昼だろうが夜だろうがその気になったら俺の船に乗り込んで来るくせに。
「気にはしないけどさぁ」
「宿は?」
「取ってねえよ。金ねえもん」
「じゃあやっぱりウチの船かな」
 今なら副船長は留守のはずだ。尤も、居た所で気にするようなシャンクスではないのだが。
「アンタも宿取ってねえの?」
「俺たちは酒を仕入れに寄っただけだ。直ぐに出ちまうから」
 そんな短時間しか上陸しねえのに会っちまうなんて、何て不運。
「バァカ。幸運だろうが?奢ってもらったくせに」
 その気になれば炎になって逃げればいいのだが、どうしたわけかエースは食い逃げなどと言う一般人相手の悪さに能力を使うことが殆ど無い。彼なりの美学があるようだ。
 港に泊めてあったエースの小船で本船へと向かう。初めて乗るエースの船にシャンクスは嬉しそうだ。
「いいな、コレ。風が無くても進むもんなぁ」
「ま、ね」
 素直に褒められてエースは少し得意げだ。エースが能力者になって直ぐ、白ひげの船の船大工が造ってくれた船だ。
「あれぇ?お頭随分早いっすねぇ?」
 港から近付いてくる小船に気付いた見張りが声をかけてくる。
「お?エースじゃねえか」
 甲板に出てきたルゥがエースの姿を見つけて寄ってきた。
「どーも、オジャマシマス」
「どうしたんだ?」
「街でたまたまオッサンに会って、拉致られた」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ。オマエ同意してんだろうが」
 ルゥはにっと笑いながら分厚い掌でエースの頭をくしゃくしゃと撫で「ま、ゆっくりしてけ」と言った。
 甲板に上がったシャンクスは周りを見回す。
「副はまだ戻ってねえな?」
「ああ、まだだ」
 シャンクスはよしよしと頷くと、エースの船を甲板にあげて置くように指示を出し、さっさと船長室へと向かう。
 其の後を付いて行くエースを見送り、ルゥは今夜は宴会だとギャレーに伝えろと若手に言った。
船長室に入るなり、ガサゴソとチェストを漁っていたシャンクスはそのガラクタ箱の中から細い手錠を取り出した。
「あったあった」
「ナニそれ?」
「手錠」
「ふうん?」
「服脱いで手ぇ出せよ」
 ニヤニヤと笑いながら言われ、エースは言われるがままにコートを脱いだ。
 華奢な手錠は獲物を本気で拘束する気があるようには見えない。オトナのおもちゃと言うやつか、と少々呆れ気味にエースはそれの手錠を見やった。本気を出せば直ぐ壊そうだし、そもそも炎に姿を変えることの出来るエースには手錠は意味を成さない。
「そういう趣味あったっけ?」
「こりゃオマエ、罰だよ、罰」
「なんの?」
「オマエのおかげでヤケドしたんだ」
 そう言って広げたシャツの胸元は確かに赤くなっていた。そういえば突き飛ばしたときに、熱い熱いと騒いでいたっけ、と思い出す。
『ま、オッサンのお遊びに付き合ってやってもいいか』
 飯も奢ってもらったことだし、と素直に両手を差し出した。




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