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古い原稿のため、現在の本誌の展開と少々設定が違いますが、お見逃しください。
「あの、副長」
ブリッジに居たベックマンのところに、狙撃隊の若手がやって来た。
「何だ?」
「あの……おやっさんは別に構わないって言うんですけどね……一応、その、お耳に入れておいたほうがいいじゃないかと……」
幾分言い難そうにしている若手に、ベックマンは作業をしていた手を止めて向かい合った。
「何を?」
「あーそのー……白ひげの……ええと……」
その名前に、ブリッジに居たメンバーは一斉に顔を上げた。だがベックマンは逆に、肩を竦めて作業へと意識を戻す。
「ああ、エースか。構わん、好きにさせとけ」
「い、いいんすか?」
だって、白ひげの二番隊隊長っすよ?と困惑した顔を向けた若手にベックマンは気にするな、と手を振った。
「大頭のところだろう?」
「ええ、まあ、そうなんすけど」
この船に乗ってまだ二ヶ月ほどの海賊にとって、四皇と呼ばれる赤髪の船に同じく四皇の白ひげの部下が単身で来る事自体考えられないことなのだろう。
「戦争を仕掛けてくるなら一人でなんて来ないし、不意打ち食らわせて大頭を倒したところで名前は上がらない。そんな真似をすれば白ひげに打ち殺されるだけだ」
「はぁ……」
彼なりに心酔する大頭の身を案じているのだろう。
「それに、エースは俺たちの知り合いだ。みんな慌ててなかっただろう?」
確かに、船に乗って間もないメンバー以外は突然小さな船で現れた青年の背中に彫られた刺青を見ても、眉一つ動かさなかった。
「こんにちはー。シャンクス居ますかー」と丁寧に頭を下げて乗り込んできたエースは、勝手知ったる他人の船とばかりにさっさと船内へと入っていく。流石にギョッとした若手が慌ててヤソップのところに報告に行ったが、エースの名前を聞くなり「ああ、ほっとけ」と銃の手入れに戻ってしまい、それから「今夜は宴会だってギャレーに伝えてこい」と言った。
「おい」
なんだかわからないが、とりあえず狙撃隊長も副船長も大丈夫だというのだから大丈夫なのだろう、とブリッジから出て行こうとした若手を呼び止める。
「はい」
「間違えても、船長室には近付くなよ」
「え、あ、はい……」
「後悔したくなけりゃ近付くな。他の若手にも伝えてくれ」
「わ、わかりました」
コクコクと頷いてブリッジを出る。
「な、なんなんだ……」
でもとりあえず、怖いから船長室には近付かないでおこう。
命知らずの海賊たちでも、怖いものは、ある。
キチンとノックをした後で入ってきた青年を見て、シャンクスは少し驚いたようだが、直ぐにニヤリと笑みを浮かべた。
「おう、久しぶりだな。本当に来たのか」
「アンタが来いって言ったんだろ。ったく、俺だって暇じゃねえんだよ」
ズカズカと部屋に入ってきて、椅子に座ったシャンクスと机の間に身体を滑り込ませる。
「お?積極的だな」
「暇じゃねえって言っただろ。あんま時間ねえの」
「そんなにねえのか?」
「だって夜は宴会してくれんだろー」
腹いっぱい食いたいし、ヤッた後風呂ぐらい入りたいしさぁ、と言われてシャンクスは苦笑した。
「……ま、そうだけどな」
「美味いよな、ここの飯」
「そりゃ、どうも。でもちょっと待ってくれねえか?これやっちまわねえと、ベックに怒られる」
机の上にはなにやら紙が散乱している。出鱈目をやっているように見えても、一応船長としての仕事はこなしているようだ。
「んだよ、相変わらず尻に敷かれてんだな」
「恐妻家なんだよ、おれは」
「アンタが女役じゃねえの?」
「うーん。時と場合に依る」
「ふうん」
エースはシャンクスに抱かれるベックマンと言うのを想像しようとして止めた。別にダメじゃないけれど、エースの中の副船長と言うのは、幼い頃船や海について教えてくれた尊敬すべき男なのだ。イメージと言うものがある。
「なんだ、ヤキモチか」
「違う」
きっぱりと否定したエースにシャンクスは声を上げて笑った。
「やっぱり妬いてんじゃねえか」
「違うって。副船長の相手がアンタみたいな男だと思いたくねぇんだって」
「……テメエだって俺に抱かれてるだろうが」
「そうなんだよなー。不本意」
エースがシャンクスのシャツを脱がせながら唇をひん曲げた。
「……可愛くねえナァ」
「悪いね、可愛いのはウチの弟に任せてんだ」
「ああ、あれは可愛い」
今頃は、あの麦わらを被って海に出た頃だろうか。
「そう、そして俺はカッコイイの」
「へえ」
気のない返事にエースは目の前にあったシャンクスの耳にかじりついた。
「アッチイ!テメ、止めろ!」
齧るだけでなく、軽く炙ってやったらシャンクスは慌ててエースから身体を離した。
「カッコイイの!」
「わかったから、耳を焼くな。おお、あちい」
「さっさとそれやっちまえよ。じゃないと俺帰るよ」
「ああ、判った判った」
シャンクスの膝から降りるのかと思ったエースはそのまま机の下に潜り込んだ。
「何だ?」
「気にすんなよ。お仕事どうぞ続けてください」
エースはブリーチからシャンクスのものを取り出すと、ベロリと舐めあげた。
「おい……」
エースはシャンクスを見上げてニヤリと笑う。
「さっさと仕事しなよ。副船長に怒られるんだろ?」
「……」
それからシャンクスのものを口に含み、舌を這わせて吸い上げる。湿った音が部屋に響く。シャンクスは書類に眼を通しながらエースの固い黒髪に指を絡めた。
「んっ……」
唾液と体液を舌で擦り付け、軽く歯を立てる。シャンクスの腰に抱きつくようにしているエースから時折艶っぽい声が漏れる。
先端に舌を押し付け、それから尖らせた舌でこじ開けるようにすると、シャンクスが小さく呻いて吐精した。
「……んぅっ」
やっとシャンクスから口を離したエースは、顎を垂れる白濁を手で拭い、ニッと笑った。
「直ぐ終わるから、ちょっと待ってろ」
「おう。早くしてくれよ」
エースは机の下から抜け出すと、さっさと服を脱いでベッドに寝転がる。
「ああ、ボウヤが我慢できねえって言ってるみてえだからなー」
既に起き上がっているエースのものを見て、シャンクスが笑った。
こうして、時折自分が尋ねてくることを赤髪の副船長がどう思っているのか知らないが、エースは一度も文句を言われたことが無い。流石に白ひげの一味である自分が大歓迎されることはないものの、来れば必ず宴をして飯を食わせてくれる。最初は警戒していた下っ端たちも当たり前のようにエースを囲む幹部たちを見て安心したのか最後には全く気にせずに互いの酒を飲んでいた。
朝、副船長室のベッドで目を覚ましたとき、流石にちょっと気まずかったけれど、朝になって部屋に帰ってきた副船長は別に気にした様子も無く「二日酔いは大丈夫か?」と穏やかに言っただけだった。
「あ、うん、大丈夫。シャンクスは?」
「寝てる。昼飯までは起きられないな、あれは」
「アハハハ!年だな、ありゃ」
そういえば、この船には何度も乗ったことがあるが、副船長の部屋に入ったのは初めてだな、と思う。煙草に火をつけた副船長の姿を視界の隅に入れながら、部屋をうかがう。
「どうかしたか?」
「え?ああ、いや、シャンクスの部屋と全然違うんだなーと思ってさ」
副船長は肩を竦めた。
ごちゃごちゃとしたシャンクスの部屋とは違い、副船長の部屋には余計なものが殆どない。只、本の量が半端じゃない。窓とクロゼットを除いた四面の殆どが本棚で占められている。
「このガレオンを造るときに大頭に頼んだんだ」
四方を本棚に囲まれた部屋。まるで測量室だ。海原を渡る船の中では本棚は固定されていないと危ない。ましてこれだけの量の書籍だ、下敷きになれば命に関わることもある。ストッパーつきの本棚はどうしても必要になる。
「港に着けばある程度処分はするんだがな、売った分と同じだけ買ってしまう」
そう言ってベックマンは苦笑した。
「控えようと思ったこともあったが、ダメだな」
「こんなにたくさん本のある部屋で煙草なんて吸っていいの?」
普通の船は船室で煙草を吸うことは禁止している。
「ああ、ウチはな」
そういえばヤソップも吸っていた。
「まあ、吸うやつは少ないが」
ベックマンはクロゼットを開けて新しいシャツを取り出した。背が高く引き締まった身体にはたくさんの傷がある。エースはこの浅黒く、逞しい身体にシャンクスが舌を這わせることを想像してみる。
案外悪くない、とエースは思った。
「ねえ」
「なんだ?」
「どうしてシャンクスを選んだんだ?」
ベックマンはチラリとエースを見た。
「お前が白ひげを選んだのは何故だ?」
「あー……、違う、そういうんじゃなくてさ」
それは判るよ。あのオッサン、ダメなオヤジだけどさ、スゲエやつだってのは知ってるからさ。
エースの言っている意味を理解して、ベックマンは苦笑した。
「どうしてそんなことを?」
「ん?」
「本気なのか?」
「え?」
着替えを終えたベックマンはクロゼットの扉に寄りかかりエースを見ている。
「うーん……」
エースはベッドに胡坐をかき、腕を組んで唸った。
「まあ、オネエサンたちとは違うよな」
そもそもが、行為における立場が違う。
シャンクスとこんな風になったきっかけがお互いに酔っ払った挙句、気付いたらシャンクスをベッドに引きずり込んで腹の上に跨っていたわけだから、愛情云々を考えたことなど無い。
「ルフィがさ」
「ああ」
「シャンクスに憧れてただろ?」
ベックマンの脳裏にあの小さな少年の姿が浮かぶ。偉大な左腕をシャンクスが与えた少年。
「じいちゃんはスゲエ人だけど、マジで怖くてさ、憧れる前に反発ばっかりしちまって」
この兄弟の祖父が海軍の中将であることはベックマンも知っていた。シャンクスでさえ、あの中将は苦手としている。
「だからシャンクスが現れるまでは、ルフィの目標は俺だったんだ」
ベックマンの眼から見てもまだ十歳だったエースはルフィの面倒をよく見ていた。屈託無くシャンクスに懐くルフィよりも、ルフィが遊び歩いている間に黙って村の舗の手伝いをしていたエースのほうが、ベックマンは気に掛かっていた。
「毎日毎日、シャンクスの話を聞かされて、どれだけスゲエか聞かされてた。だから、海に出て海賊になって、オヤジの息子になって、海賊として名前も上げて。そんなときにさ、アンタ達の噂を聞いてさ、久しぶりにあのセクハラオヤジの顔を見てやろうって思ったんだ」
正直、俺、ちょっと調子に乗ってたんだよなー。
ベックマンは煙草に火を点け、深く煙を吸い込んだ。
「で、どうだった?」
エースはクスッと笑った。
「フーシャ村に居たときも思ってたけどさ、大人になってからあってみても、やっぱりビックリするくらいダメな大人だったなぁ」
ベックマンが笑う。
「で、やっぱりすげえ男なんだなぁ、って思ったよ」
「そうか」
「だから、副船長が言ってるような意味で、シャンクスが好きなわけじゃねえよ?」
ルフィにしても、エースにしても、もしかしたら彼らはある意味ファザーコンプレックスを持っているのかもしれないとベックマンは思った。二人ともいい意味でも悪い意味でも、幼い頃から自立している。せざる得ない、状況にあった。
「それにやっぱり、アンタ達は俺の敵だからね」
そばかすだらけの顔でニッと笑った。
「副船長が心配するようなことはないさ」
ベックマンは小さく笑った。
「心配、ね」
「違ぇの?」
心配などしていない。
どうせ、誰もアノ男を手に入れることなど出来ないのだ。心配などしようがない。
「単なる嫉妬だ」
エースは目を見開いてぽかんと口を開けた。それからぎゃはははは!と大声で笑う。
「そっかぁ!」
「さて、そろそろベッドを明け渡してもらえると助かるんだが」
「あ、悪い。どうもアリガトウゴザイマシタ」
ブーツを履き、机の上に置いてあった帽子を被る。
「直ぐ帰るのか?」
「ああ、うん。ちょっとやらなきゃいけないことがあってさ。しばらく船を離れるんだ。ま、今日はその挨拶ってことで」
「そうか」
「当分この船の飯も食えねえナァ。あ、昨日はご馳走様でした」
ペコっと頭を下げたエースにベックマンがクスッと笑った。この青年のこういう礼儀正しさは何処で身に着けたものなのだろうか。同じ場所で育ったルフィには全く見受けられないのに。
「副船長も結構酒飲んでたのに、よく夜ワッチなんて出来るな」
「……否、ワッチじゃない」
「そうなの?」
ベックマンはベッドに腰掛、軽く手を上げた。
「お休み、エース。元気でな」
「え、あ、うん。じゃ、お邪魔しました」
丁寧に頭を下げ、部屋を出る。
もしかしたら自分がベッドを占領してしまったせいで眠れなかったのだろうか?
「まさかなぁ?」
そこまでエースにする必要はないし、してくれたとしても寝るところは他にもあるはずだ。
他の寝る場所と考えてエースは「あ」と声を上げた。
それから、出口とは反対側に足を向けた。
「おはよう、オッサン」
「……」
シーツの下から僅かにのぞいた赤い髪を引っ張ってやると、低い呻き声が聞こえた。
「俺、帰るけど」
シャンクスはくぐもった声で悪態を吐き、身体を起した。シーツの下は素っ裸らしい。頭からシーツを被ったまま不機嫌そうに胡坐をかく。
エースはニヤリと笑った。
昨日、エースが見たときには付いていなかったはずの欝血がシャンクスの身体のそこかしこに付いている。もちろんエースが付けたものではない。
「しばらくは来ないよ」
「そうなのか?」
「忙しいって言っただろ?俺もお仕事があんの」
「へえ」
シャンクスが手を伸ばし、エースの身体をベッドに乗せる。腰に手を回して引き寄せるとエースが喉を鳴らして抱き付いてくる。そのままキスをしてベッドに押し倒そうとするのを、エースが笑いながら止めた。
「無理すんなよ」
「何が」
「副船長が言ってたぜ?昼までは起きられねえって」
「…………ヤロウ……」
ししししッと笑い、エースがベッドから降りる。
「じゃあな、オッサン」
「おう、元気でな」
ヤソップとルゥに見送られて自分の小さな船に移る。
自分に課せられた任務はどれだけ時間が掛かるかわからない。次にこの船を訪れるのはいつになるだろうか。
「うーん、もう一回ぐらいシとけばよかったかな」
船を走らせながらエースは呟く。
船首に竜を飾ったガレオン船はもう見えなくなっている。
「さぁて……」
帽子に手を掛け、微かに笑う。
「何処にいるのかね……あのバカは」