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マルエー!


「で……なんでソレを俺にわざわざ報告すんだよ」
 聞きたくもない悪友の情事の様子を聞かされてサッチは心底嫌そうに顔を顰めた。
「だってマルコと一番仲良いのサッチじゃねえか」
「はぁぁぁぁ!?お前の眼は何?その黒々した目は節穴か!?」
「なんでだよ、仲良いじゃん」
「腐れ縁ってんだよ、ああ言うのは」
 確かにマルコとサッチは良く喧嘩をしているが、アレは喧嘩と言うよりもじゃれあいだとエースは思っている。だって、戦闘時の二人のコンビネーションは傍で見ていて少々妬けるぐらい息がぴったり合っている。
「ふうん……」
「なんだよ、その目は」
 サッチは迷惑そうにエースを見返した。
「なんでもねえ。それよりさぁ、マルコのコトだけど」
「ああ?」
 エースはきょろきょろとあたりを見回し、すっとサッチとの距離を詰めた。
「サッチってさ、見習い時代からマルコのこと知ってんだろ?」
「おう。今はアイツもおっさんだが、見習いの頃はまだガキだったからなァ。結構叱られたりしたもんだぜ」
 遠い目をしながらそう言うサッチも当時はガキだったのだが。二人の見習い時代の話を聞くのも面白そうだが、そのまま思い出モードに入られても困る。
「その話もすげえ興味あんだけど、あのさ……マルコって、男もイケんの?」
「は?」
 サッチは思わずエースの顔を見返した。真剣な顔でじっとこっちを見ている様からどうやら本気で言っているらしい。
「お前はどっちがいいんだ?」
「どっち……?」
「マルコが男もイケたほうがいいのか、ダメな方がいいのか」
「……………………どっち……だろう?」
 腕を組んでうーんと悩み始めたエースにサッチは苦笑した。たぶんエースはマルコが男と寝たことがあると言われればヤキモチを妬くだろうし、男は守備範囲外と言われればそれはそれでショックを受けるのだろう。
「そこで迷うようなら聞かねえほうがいいんじゃねえの?」
 恋愛相談に見せかけた惚気話はもうおしまい、と立ちあがろうとしたサッチのシャツをエースが掴んだ。
「なんだよっ」
「やっぱり、気になる」
「……イケんのかどうかは、お前が身をもって体験したんじゃねえの?」
「あー、まあ、そうなんだけど……」
 照れ照れと顔を赤らめてもじもじするエースはなんだかちょっとイラッとする。
「じゃあ俺に聞く必要ねえだろうが」
 やっぱり惚気かコンチクショウ、と立ち去ろうとしたサッチのシャツをギュッと握って引き戻す。
「だからなんなんだよっ!」
「だからっ!お、俺はさ、何度も何度もアタックして、ようやくマルコに相手してもらったわけ!」
「ああそう、そりゃ良うございましたねえ」
 オメエがマルコに惚れてて何度も何度もしつこく迫ってたことなんて、隊長連中はみんな知ってるっちゅうの!
「もー、何が不満なんだよ、なんで俺はこんないい天気の真昼間の甲板でマルコの性癖の話をしなきゃいけねえんだよ、勘弁しろよなー」
 久々の好天だ。洗濯ものだって溜まっている。甲板にはためくシーツがうらやましい。ああ、俺のシーツも混ぜてくれ……
「だって……だって、こんな話、サッチじゃなきゃ話せねえよ……」
「うっ……」
 俯いたエースはサッチのシャツの裾を掴んだまま、ぼそぼそとそう言った。
「……でも、迷惑だよな?ごめん……」
 エースは上目遣いでサッチを見やった。
「あ、いや……」
 その目は反則だろう、と天を仰ぐ。
「わかった、話聞くからそう言う顔すんのやめろ」
「ほんと?」
 パッと顔を上げたエースのニコニコと嬉しそうな顔を見た瞬間、サッチは洗濯をきっぱりと諦めた。
 弟分の笑顔のためだ。こうなりゃとことん付き合ってやろうじゃねえか。埋め合わせはマルコにしてもらおう。
「おおよ。で、本人には訊いたのか?」
「……訊いたけど答えてくれなかった」
 なぜそこで顔を赤らめる。
 何やらいろいろ思い出してしまったらしいエースに突っ込みたいのを我慢して水を向けてやる。
「しかしなんだって急にンなことが気になり始めたんだ?お前だってマルコが初めてってわけじゃねえんだろ?」
「……」
「?アレ?」
 黙り込んだエースにサッチが首を傾げた。
「……マジで?」
「あ、や、その……だから、男とは……したことなかったから……」
 おやおや。
 エースのマルコへの猛アタックを見ていた隊長たちの間では、てっきりエースはそっちも経験済みだという話だったのだが。
「いや、その……初めてとか、マルコが嫌がるかなーと思って」
 どういう思考だ、そりゃ。
「だってめんどくせえだろ?」
「まあ……多少は。でもさぁ、普通、嬉しいモンじゃねえのかなぁ……そういうのって……」
「めんどくさくても?」
「お前なんでそこにこだわる?」
 ピンと来た。
 さてはコイツ、女もプロしか相手にしたことねえな、こりゃ。
 マルコに惚れる前は陸に上がれば普通に娼館に出入りしていたから、経験はそれなりにあるのだろうが、いわゆる「恋愛」はまともにしたことが無いに違いない。とんだ箱入りだな。
こんな可愛いのに抱いてくれと乗っかられちゃあ、マルコもメロメロだろう。
「マルコにバレなかったのか?」
「バレた」
 だろうね。
「あー……」
「しかも、なんか、マルコはさ、慣れてるみたいだったんだ……」
 なるほど。そこで最初の質問に戻るわけか。
 サッチは笑いを噛み殺しながら頷いた。
「上手かったわけね」
「……」
「いいじゃねえか、過去はどうでもマルコはお前を選んだんだからよ」
「でも……選んでくれたって言うか……俺が押し切ったって言うか……」
「押し切っただぁ?生意気言うなよ、ガキが。海に出て間もないひよっこに迫られたくらいで、あのふてぶてしいマルコがうっかり首を縦に振ったりするかよ」
「……あんまりしつこいから同情した、とか」
 言いながら落ち込み始めたエースにサッチは眉を顰めた。エースは基本的に自信家で楽天家なのだが、なぜか時折酷く自分を低く評価する時がある。それも、どうやら無意識に。
「バカか」
「なっ……」
「ガキの頃から海賊やってんだ、アイツだって人様に誇れるような素行じゃぁねえけどよ。同じ船に乗る仲間に簡単に手ぇ出すようなヤツじゃねえぞ」
「……それは!……わかってる」
「いーや、わかってねえ」
 フン、とサッチはエースの鼻を摘まみあげた。
「わかってねえから不安なんだろ、お前」
「イテえ」
 ピンっとエースの鼻を弾く。
「マルコを信用しろよ」
「信じてるよっ……信じてるけどさ」
「けどじゃねえの」
 拗ねたように言うエースが可愛くて、サッチはくしゃくしゃと頭を撫でた。
「港でどんなヤツを相手にしてるかまでは流石に知らねえけどな、少なくとも、この船じゃ男だろうが女だろうがマルコはお前以外のヤツに手を出したことはねえ。それは断言できる」
「……」
「そもそも、お前に会う前の事までどうこう言われちゃマルコも気の毒だぜ?」
 どれだけ年齢差があると思っているのだ。あの年まで童貞でいろとでもいうのか、お前は。
「あ、や、そう言うつもりは……」
「だーかーらー、何が言いたいんだ?俺にはお前が悩んでる理由がわからん。惚れた相手が受け入れてくれた、しかも床上手、万々歳じゃねえかよ」
「……えと、その……」
「エース」
「う、ん?」
「なんで素直にマルコは自分に惚れてるって思えねえの?」
「え」
 その瞬間のエースの顔を見て、サッチは悟った。
 コレは自分じゃ手に負えない、と。
「いいか、エース。
 第一に、マルコは遊びや同情で仲間に手を付けるような真似はしねえ。
 第二に、マルコは女好きだが、男好きってわけじゃねえ。経験があるかどうかまでは知らねえけどな。男だからって理由でお前を選ぶなんてありえねえ。
 第三に、惚れた相手がバージンだからってめんどくせえとは思わねえ。むしろ、テンションあがるね、俺は」
 ビシッと鼻先に人差し指を押し付けてサッチはそう言うと、立ちあがった。
「第四に!マルコの男の経験があるかどうかを聞く前に、自分のこと好きか訊いてみろ」
「そ、それは無理っ!」
「なんでだよっ」
「だ、だって……」
「あーもう、イライラする奴だな!来いっ」
 サッチはエースの手をひッつかんで、ドカドカと歩き出した。
「サ、サッチ、どこ行くんだ?」
「いいからついて来い」
 わけもわからず引っ張られたエースは、サッチが向かう先につい先ほどまで話題にしていた人物の部屋を見つけて慌てて足を止めようとした。が、予想以上にサッチの力は強く止められない。
「ちょ、サッチ……」
「オイッ!マルコ!」
「あ?」
 大量の本と海図を広げて何やら調べ物をしていたマルコが顔を上げた。
「なんだよい?」
「お前が上手くやらねえから、俺はせっかくの洗濯日和を無駄にした!」
「は?」
「天誅!」
 言うなりサッチはエースを引き寄せ、その口をガバッと自分の口で塞いだ。



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