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2008年6月の本より。ガッツリ副シャン。結構イチャイチャ。
一晩経つとシャンクスの傷も血は止まり、熱も引いた。となると大人しく寝ていられない性質の男をベックマンはベッドに押し込めることに苦心していた。眼を離せばすぐにうろうろしたがる。
「なあ、ベック」
「なんだ」
「食糧があんのに、酒はねえっておかしくねえか?」
これだけの屋敷にワインセラーが無いわけがないと、シャンクスは主張する。
「さてね、少なくとも俺は見つけられなかった」
「だったら俺が……」
「アンタは怪我人だ。うろうろするなと言っている」
「だから、もう大丈夫だって言ってんだ」
そんな遣り取りを朝から何度繰り返したか判らない。
確かに、海賊稼業などしていれば銃弾での怪我など日常茶飯事で、この程度の怪我ならばベックマンとて何度も経験がある。しかし薬もない今の状態で酒など飲ませるわけには行かない。
「船に戻ればラムを浴びるほど飲ませてやるから、我慢してくれ」
「約束だぞ!浴びるほどだからな!」
「わかったわかった」
窓の外は相変わらず霧が立ち込め、街の様子がわからない。船はどうなっただろうか。トップ不在とは言え、赤髪の精鋭たちが簡単にやられるわけがないが、やはり状況がわからないのはもどかしい。
屋敷の周りはきみが悪いほどに静かだ。
カッツェが現れる気配も無い。シャンクスの落ち着きがない原因の一つはそれだろう。無事で居てくれればいいのだが。
一日が酷く長く感じられた。
夜中に、雨音の激しさに眼を覚ました。殴りつけるような雨が窓を叩く。船の上では繰り返す波音も嵐の音もさして気にならないのに、陸の上ではこうも気になるものなのかと苦笑する。シャンクスは眠れているかとベッドに眼を向けてベックマンはシャンクスが居ないことに気付いた。
用足しにでも行っているのだろうか。それにしてもシャンクスが起き出した気配に気付かないとは情けない。
ベックマンは持ち出してきた酒を開けた。シャンクスが戻ってきたら、一人で飲んでいたことにきっと腹を立てるだろう。そう考えて、ふと思った。
まさかと思うが、シャンクスは酒を探しに行ったのではあるまいな。
やりかねないのがあの男だ。食い物や酒に関しては呆れるほど手に入れる手間を惜しまないのだ。
「……」
ベッドに触れてみて、ベックマンは眉を顰めた。冷たくなっている。随分前にシャンクスがベッドを抜け出したということだ。其の上、ベッドの傍の椅子にはシャンクスの服がかけられたままだ。つまり裸のままフラフラ出歩いているということか。
「ったく、何をやっているんだ……」
ベックマンはシャンクスを探しに部屋を出た。
キッチンを覗いて見たが、シャンクスの姿はない。トイレや他の部屋を覗いてみたが、やはり見当たらない。もしかしてあの部屋では、と思いつきベックマンは二階に戻った。
二階に上がり、ベックマンは奇妙な感覚を覚えた。
ここの廊下は、こんなにも長いものだったろうか。なんだか違う建物の中に居るような気がする。
まさか。
暗さで距離感がおかしくなっているだけだ。足早に進み、一番奥の部屋の扉をそっと開く。
「……!?」
そこにあったはずの絵も、人形も姿を消していた。それどころかあの部屋が無い。其処はだだっ広い四角い箱のような部屋だった。アレほど激しく振っていた雨の音も聞こえない。耳が痛むほどの静寂。
「此処は、何処だ?」
慌てて振り返るが、たった今入ってきたはずの扉は硬く閉ざされていて開かない。
殴ろうが蹴ろうがビクともしない。銃を置いてきてしまった自分に舌打ちをする。不慣れな場所で銃を持たずに歩き回るなど、なんという失態だ。
「クソッ!」
シャンクスは一体何処に行ってしまったのだ。無事なのだろうか?もしシャンクスが自分の意思で姿を消したのではないのならば、相手は寝ているベックマンに気付かせることなくシャンクスだけを攫っていったということになる。そんなことが可能か?
赤髪のシャンクスだぞ?
いくら怪我をしているといっても、あの男が簡単に攫われたりするだろうか。
できるとすれば……
「能力者」という言葉が頭を過ぎり、ベックマンは拳を扉に打ち付けた。
とにかく此処から出なければ。
部屋の中に何か使えるものは無いか、ベックマンは広い部屋の中を歩き回った。
石で出来ているらしい部屋は窓もないのになぜか微かに明るい。じっとりと暑いのは焦りのせいなのか。部屋の中をうろうろと動き回るうちに、ベックマンは壁の一部に黒い染みのようなものを見つけた。
近付く。
それは拳ほどの大きさの穴だった。
その穴の向こう側に、ベックマンは捜し求めていた男の姿を見つけた。
「お頭ッ!」
壁の向こう側で、シャンクスが椅子に座っている。ベックマンの叫び声にも気付かない。
「お頭ッ!シャンクス!」
壁を叩き、必死で呼びかける。
だがシャンクスはベックマンとは違う方向に視線を向けていた。
様子がおかしい。
シャンクスの瞳にはいつものような力強さも、悪戯めいた光も見えない。ぼんやりとした硝子玉のような赤い瞳。
背中を電流が走るような衝撃だった。
「シャンクス!シャンクス!……クソッ!」
シャンクスはピクリとも動かない。
直ぐ其処に見えるのに、手が届かない。
ベックマンは思い切り壁を蹴りつけた。
「!」
壁の向こう側、ベックマンとシャンクスの間に人影が現れた。
「……誰、だ……」
ゆっくりと、その人影は振り返った。
赤い髪、赤い瞳。白い肌と、華奢な身体。
ソイツは吐き気がするほど上品にベックマンに笑いかけた。
唐突に眼を覚ました。