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2010年シャン誕。拍手お礼より再録。品が無い…… 

甲板で昼寝をしていたシャンクスは、ランドホーの声に飛び起きた。
「ど、どこだ?」
 あっという間に見張り台に上ってきた船長に見張りが笑う。
「まだ豆粒みたいにしか見えねぇよ」
 望遠鏡を奪い取って島を見るシャンクスの口元には嬉しそうな笑みが浮かんでいる。
「おーい!野郎ども!寄港準備しろーっ!」
「ヨーソロー!」
 シャンクスの声に甲板は一気に騒がしくなった。
「なぁにムツカシイ顔してんだ?」
 船室から出てきた副船長の隣に、見張り台から降りてきたシャンクスが近づいて行く。
「……まだ、どんな島かもわからねぇんだぞ?」
「わからねえから行くんだろ?」
 そりゃそうだ、と通りかかった航海士が笑う。
「いいじゃねえか。みんな退屈してたんだから」
「退屈していたのはアンタだろう?」
「俺も、だってば」
 むっと口を尖らせたシャンクスにベックマンがククッと笑った。
 ここのところ驚くほど穏やかな航海が続いていた。敵襲も時化もなく、まさに順風満帆。
 初めのうちは何やかやと理由を付けて宴会をしていたが、順調な航海も一週間もすればクルーの顔には「退屈」の文字が浮かび始める。そして、その文字が一番くっきりと浮かび上がっていたのが船長閣下であるのは間違いない。
「お前だってホントは退屈してたろ?」
「いいや」
「ウソつけ」
「ホントだ。不安で仕方がない」
 ベックマンは煙草を咥えて火を点けた。深く煙を吸い込んで吐き出す。
「不安?なんで?」
「アンタたちが退屈すればするほど、やらかす事件の後始末が面倒になる」
 やらかすってなんだよ!と頬を膨らませながらもシャンクスはまだ笑っていた。なんだかんだ言いながらも、ベックマンも上陸しないとは言っていない。結局退屈していたのはベックマンも同じなのだ。

「さて」
 ベックマンは煙草を消すと上陸準備の指示を出すために船室へと降りて行った。

「おおお!無人島か!」
 嬉しそうな声とともに真っ先に船から降りていく。
「お頭!ちょっと待て!一人で動くな!」
「なんだよ」
 足踏みしながらシャンクスが振り返る。
「何がいるかわからないんだぞ」
「大丈夫だってば!」
 ブン、と大剣を振りまわした。
「それに地図もねえのにアンタちゃんと戻って来れるのか?」
「……ちょっとその辺見てくるだけだ!すぐ戻るからっ!」
「あっ!こらっ!……ああもう、くそっ!」
 あっという間に密林の向こうに姿を消してしまったシャンクスに舌打ちする。
「心配ねえよ、ベック。あのお頭だぜ?」
 化物みてえな獣が出たって、相手になるもんか。
「気の毒なのはお頭に見つかった獣の方さ」
 ルゥが笑いながらそう言ってベックマンの肩を叩いた。
「どうせ小さい島だ。帰って来なけりゃ探しに行けばいいだけだ」
「心配なのはそんなことじゃない」
「?」
 苦々しげにベックマンが言う。
「戦えるほど大きな獣ならまだいいが、相手が虫や植物じゃぁどうにもならないだろう?」
 シャンクスがそういうものに気を使うとは思えない。虫に刺されても気づきもしないかもしれない。
 ヤソップとルゥが顔を見合わせ、それからブハッと噴き出した。
「おめえの心配症も大概ビョーキだな!」
「今までだって散々無人島やらジャングルやらうろうろしてきたじゃねえか!」
「……」
「そんなに心配なら、さっさと追いかけろよ」
「お前以外じゃお頭を止められる奴なんていねえんだからさ」
 深々と溜息を吐いて陸に向かおうとするベックマンに、仲間たちが声を掛ける。
「おい、ベック」
「夜までに戻ってきてくれよ」
「今夜は、特別だからな」
 振り返ればニンッと笑ったおっさんたちの姿。
「……了解。準備は任せる」
「おおよ」



「お頭っ!待て!」
 散々探し回って、島の反対側までたどり着き漸く見つけたシャンクスは、どう見てもそれは口に入れてはいけないだろう、と思われるキノコを手にしていた。
「あ?なんだ、ベック。やっぱりお前も上がりたかったんじゃねえか!」
 にこやかにそう言われて、ベックマンは乾いた笑いをもらした。
「……そのキノコをどうする気だ」
「食う」
「……止めてくれ」
 取り上げて放り投げる。
「あっ!何すんだ!」
「アレは食えねえ」
 シャンクスの尋常ではない生命力を考えればたとえ猛毒のキノコを食べても死にはしないだろうが、万一幻覚でも見て大暴れでもしたら大変だ。
「その辺に生えているものを何でも食うなと言っただろうが」
「でも腹が減ったんだ」
「だからってあんな尋常じゃない色のキノコを口にするな」
「船に戻れば食うモンはある。少しぐらい我慢してくれ」
 ちょっとその辺、と言っていたくせに船から大分離れてしまっている。これでは船に戻る頃には日が暮れてしまうだろう。方向音痴の癖にどうして地図もなしに歩き回れるのだ。
「戻るぞ。みんなが待ってる」
 歩き出したベックマンの後を、それでも素直について来た。
「………………じゃあさ」
 背後から掛けられるシャンクスの声に微妙に嬉しげな色を見つけて、ベックマンがちらりと振り向くと、ニヤニヤと笑った シャンクスの顔が見えた。
「食わせろよ、お前の、」
「……………………品のねえ……」
 呆れかえった返事にゲラゲラと笑い声を上げてシャンクスがベックマンの背中に飛びついた。
「ハラヘッタ!」
「はいはい」
「食わせろ―」
「後でな」
「おおっ!珍しくやる気だな」
「当分キノコは見たくねえって言いたくなるまで食わせてやろう」
「うはーっ!このドスケベっ!」
 ぎゃあぎゃあと騒ぐシャンクスを背に乗せたまま、ベックマンは船へと向かった。


「僭越ながらぁ!赤髪海賊団狙撃隊隊長ヤソップ様が乾杯の音頭をぉ取らせていただきまーっス!!」
 船大工によって組み立てられた舞台の上で、みょうちきりんな服装をしたヤソップが声を張り上げる。それに応える男たちもそれぞれが「正装だ」と主張する派手な服装……というか仮装と言うか……で火を囲んでいる。
 シャンクスが舞台の上に引っ張り上げられた。
「それではぁっ!!愛すべき我らが赤髪の船長閣下のスバラシキ誕生日を祝いましてぇ~!!」


『『かんぱーい!!!!』』


 湧き上がる歓声。
「ひひ、僭越ッて言いながらヤソップ様だってよ」
 隣に座るルゥがニヤニヤと笑いながら言う。
「ヤソップらしいな」
 ベックマンも笑う。
 誰も彼もが笑っている。
 舞台の上で照れくさそうに仲間たちから酌を受けるシャンクスも、笑っている。
「いい夜だな」
「ああ」
「そう言えばお頭が言ってたんだが」
「ん?」
「夜食はキノコのフルコースらしいな」
「ブハッ!」
「ま、頑張れ」
 干しキノコにされねえようにな、とルゥはベックマンの肩を叩いて去って行った。
「………………怖ろしいコト言いやがる」
 

 結局干しキノコが出来たかどうかは不明のままだが、翌朝朝食の席で妙にげっそりした副船長と元気いっぱいにキノコのリゾットを食べている船長が目撃されたという。


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