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アリスは春が好きだ。
夏も秋も冬も、それぞれにいいところがあって嫌いではないけれど。でも熱さにも寒さにも弱いアリスには春はとても過ごしやすい季節なのだ。
それに、春は火村と出会った季節でもある。ゴールデンウィーク開けの晴れた日に、生涯で最も信用するに足りる友人(兼恋人)に会えたことは、アリスが春を好きになる要素のひとつでもあった。
4月も終わり、世間はいわゆる大型連休というものに入った。尤も、アリスのような生活をしていると連休だろうがなんだろうが、締め切りの近い原稿があれば休みなんて取れないけれど。幸いにも今年は長い間アリスを悩ませていた長編小説も無事東京にいる編集者の手に渡り、近い締め切りはない。珍しく世間にあわせてアリスも大型連休と相成ったわけだ。
火村に電話をしたら連休中は何処にも行かずに下宿にいるというので、遊びに行くことにした。
火村の下宿には駐車スペースがあるけれど、火村のベンツが置いてあるので、アリスはいつも下宿の近くの用水路脇の小道に車を止めている。4月には桜の花が美しかった小道も、今は葉桜になり徐々に夏の準備を始めているようだ。気持ちの良い木漏れ日と、静かな住宅街のどこかから聞こえてくる子供の声。来る途中で買ってきた柏餅を手に提げて、ぶらぶらと歩く。
火村の下宿の生垣まで来たところで、火村とばあちゃんの愛猫がピョコンと生垣から顔を出した。
「お?ウリ。出かけるんか?」
しゃがみこんだアリスの手にグリグリと頭を押し付けたウリは小さく「にゃ」と鳴いてから道路を渡り、向かいの家の塀に飛び乗って歩いていってしまった。「よいしょ」と声をかけて立ち上がったアリスの頭上からきゃあきゃあという甲高い声が聞こえてきた。
「?」
火村の部屋の窓が開いていた。窓辺に火村が座り、煙草をすっている。アリスが下にいることには気がついていないようだ。
「…………」
ふと、火村が笑った。苦笑するような、それでも不愉快ではなさそうな、柔らかな笑み。
「…………ふーん」
なんだろう。
もやもやとした何かが胸の中にふと湧き上がった。良くわからない。火村が笑っている。いいことじゃないか。
「アリス!」
顔を上げると火村が手軽く手を上げた。
「上がって来いよ」
アリスも手を上げて応えると玄関へと回った。
カラカラと音をたてて玄関の引き戸を開ける。「こんにちは~」と中に声をかけると、ばあちゃんが居間から顔をのぞかせた。コオも、ひょいと顔をのぞかせ、相手がアリスだとわかるとトテトテと歩いてきた。
「コオ、久しぶり~」
コオはアリスが好きだ。アリスが遊びに来たときは大抵出迎えてくれる。手を伸ばせば、うれしそうに目を瞑った。
「有栖川さん、こんにちは。今、火村さんの学生さんたちが来てはるんよ」
なるほど。あの笑い声の主は学生か。あまりプライベートに立ち入らせない火村にしては珍しいこともあるものだ。
ばあちゃんに柏餅を渡して、古い階段を上る。何度も上った階段だ。古くて、脚をかけるたびにキシキシと音がするけれど、良く磨きこまれた階段だ。ばあちゃんのために火村がつけた手すりだけが新しい。
火村の部屋はドアが開け放たれていた。スリッパが部屋の前に何足も脱ぎ捨てられている。アリスの後を着いて来たコオは、学生たちの声を聞いてピタリと足を止めた。少し考えてから、やがて階段を下りていった。アリスや火村と一緒にいたいし、人見知りの猫ではないけれど、あんなににぎやかなところはやはり嫌なのだろう。
「よう」
アリスが顔を出した途端、黄色い声が飛び交う。
「あ~、有栖川先生や!ホンマに来はった!」
「いや~!ほんまや~。うれし~!!」
きゃあきゃあといいながら、部屋にいた学生たちがわらわらとアリスを取り囲み中に引き込む。
「な、なに?」
思いがけない歓迎振りにアリスは顔に困惑の色を浮かべた。部屋を見回すと狭い部屋の中に5人の学生がいる。いつも火村が書き物をしている炬燵机は部屋の隅に立てかけられていた。女の子の声ばかりがきゃあきゃあと聞こえていたけれど、男子学生も2人いる。
アリスは学生たちの中に見知った顔を見つけた。
「貴島さん。久しぶりやね」
以前に会ったときよりも、ずっと明るい顔をした少女は、にっこりと笑う。女の子というのは少し会わないうちに随分とイメージが変わる。ストレートだった髪にパーマをかけ、明るい茶色に髪の色を変えた少女は以前に会ったときよりも大人っぽく、色っぽくなっていた。
「こんにちは。ご無沙汰してます」
そういった貴島嬢の膝の上には、まだ小さな黒い猫がいた。
篠宮家の隣家の猫が子供を産んだのは2ヶ月前のことだ。黒猫が3匹、白黒猫が1匹。アリスにももらってくれないか、と話があったのだが残念ながらアリスのマンションは動物を飼うことができない。火村とばあちゃんが手分けして貰い手を捜し、其のうちの1匹を火村のゼミの学生が引き取ることになったのだという。ゴールデンウィークに実家に戻るので、その時に一緒に連れて行こうと取りに来たらしい。
実家ではさらに2匹の猫を飼っているという女子学生は、本当に猫が好きで仕方が無いらしい。貴島嬢の膝の上で丸くなっている子猫の頭を時折愛おしそうに撫でてやっている。
「へえ……貰い手見つかったんやね。よかったなぁ」
「ああ。流石にうちじゃこれ以上飼えねえからな」
テーブルをどかした畳の上に直接置かれた紙コップにはウーロン茶が注がれている。学生の一人がアリスに「何か飲まれますか?」と新しい紙コップを持ち上げた。
「ああ……俺はこっちがあるから」
アリスは古いけれどきちんと片付けられた台所から自分のコップを持ってきて、火村の側に腰を下ろすと、やはり畳の上に置かれていたウーロン茶のペットボトルを取って注いだ。
別に、紙コップだって構わないのだけれど。なんとなく、自分のコップを使う必要があるような気がしたのだ。
「あの……」
火村を挟んだ反対側にいた男子学生が、おずおずとアリスに声をかけてきた。
「なん?」
「あの、これ……サインをいただけませんか?」
そういって差し出したのは、先月出たアリスの新刊だった。
「こいつら猫を取りに来ただけだってのに、お前が来るって聞いた途端勝手に上がりこんできやがった」
そういって火村が笑った。さっき、窓の外で見た、柔らかく苦笑するような笑み。アリスやばあちゃんの前で見せることは少なく無いけれど、他人がいるところで火村がこんな笑みを浮かべるのは珍しい。
ああ、まただ。
また胸の中に、あのもやもやしたものがが湧き上がってくる。
「あ……ええと、はい、じゃあ」
未だに、火村の前で誰かにサインをするのは気恥ずかしい。火村が、冷やかすでもなく静かに笑って其の様子を見ているのを知っているからだ。
サインをして本を返すと、男子学生は其の本をうれしそうに胸に抱いた。
「有難うございます。ほんま、無理言って貴島さんたちにくっついてきて良かった!ほんま、有難うございます。この本めっちゃ面白かったです!」
ミス研に所属しているという彼はアリスのファンだという。本当は火村に本を託すつもりだったらしい。ゼミ生でもなければ社会学部でもないので、中々火村に近づく機会がない。そんなときに彼女の友人が火村から猫をもらうという話を聞いた。さらにはアリスとも知り合いだという朱美が一緒に行くと聞いて、連れて行ってくれるように頼み込んだそうだ。しかも、偶然にも今日アリスがここに来ると知って、朱美が火村にアリスとあわせてくれるように頼んだというわけだ。
「いやあ、こちらこそ。読んでくれて有難う」
おずおずと差し出された手をアリスが握り返すと、学生は顔を真っ赤にして何度も頭を下げた。
「お前らそろそろ帰れよ。もうアリスにも会ったんだし十分だろ」
「え~」
「え~じゃない。ほら、こんな狭い部屋にこんな大人数狭苦しいだろ」
火村に追い立てられるようにして、学生たちはしぶしぶ立ち上がる。子猫をもらっていく学生は、持ってきたキャリーバッグにそっと子猫を入れた。
「可愛がってやってくれよ」
「はいっ」
キャリーバッグの中で、子猫が不安そうに鳴いた。「少しだけ、我慢してろよ」そういって火村はバッグの中にタオルを入れてやる。片手の掌で包めるほど小さな頭を優しく撫でてやって、火村はバッグの扉を閉めた。
「有栖川さん、また学校のほうに顔出してくださいね」
「先生!サイン有難うございましたっ」
口々に挨拶をして学生たちは帰っていった。
急に、部屋の中に静けさが訪れる。窓辺に座ったアリスはなんとなく窓の外に目をやった。バス停への道を、5人の学生がはしゃぎながら歩いていく。学生の一人がアリスに気づいた。こちらに手を振ってくる。アリスも笑って手を振り返した。そして、やがて学生たちの姿は見えなくなった。小さくため息をついて、ぐったりと窓枠にもたれかかる。
玄関から戻ってきた火村が、そんなアリスの姿を少しにやけた顔で見ていることになんて気がついていない。
火村はアリスの背後に腰を下ろすと、振り向こうとしたアリスを押しとどめた。
「何?」
「機嫌悪いな」
後から抱きしめるようにして、火村がアリスの耳元に声を吹き込む。少し笑っているような言い方にアリスはムッとする。
「別に、そんなことあらへんけど」
「いつもならファンに直接会うとやたらとテンションが高くなるくせに、なんだか随分そっけなかったじゃないか」
「そんなことないって」
「俺が追い返しても、引きとめもしないしさ」
耳に唇をくっつけながら、火村は囁く。言葉とともに吐き出される吐息が耳にかかってくすぐったい。アリスはフルリと身を震わせた。
「昨日電話が来たときはご機嫌だったんだけどな、何が機嫌を損ねたんだろう?」
押しのけようとしてくるアリスを、優しく、でも強引に押さえつける。
「やから機嫌悪いことないって言うてるやろ。ほらっ放せや。外から見えるっ」
くすくすと笑いながら、火村はアリスのTシャツの中に手を滑り込ませる。
「俺の推理では、有栖川先生はどうも学生が俺の部屋にいたことがご不満だったと見える」
「やからっ」
首筋に唇を寄せ、小さな声で囁く。シャツに潜り込んだ手は胸元の突起を探り当て、少し伸びかけた爪でカリカリと引っかくように愛撫する。
「ふむ、となると、有栖川先生のご機嫌が悪くなった理由は、ヤキモチということになるな?」
「火村ッ」
シャツの中から火村の手を引き抜こうとするアリスの顔を無理やり後に向かせると、火村は首筋に這わせていた唇をアリスのそれに押し付けた。
「ん……っ……あ……」
無理な体勢が苦しいのか、アリスの抵抗が弱まる。ちゅっと音を立てて唇が離れた。
「アホかっ。誰かに見られたらどうすんねんっ」
「別に?どうってことないさ。そんなことより俺にとっては有栖川先生のご機嫌がどうすれば回復するかってコトのほうが大事なもんで」
「だから機嫌悪くなんて無いって!」
「いいや、悪いね」
背後から抱えたままアリスのチノパンの上からアリスのモノに触れた。ビクリと身体を震わせたアリスは必死でもがいて逃げようとしてバランスを崩し、畳の上に倒れこんだ。
圧し掛かる火村は、手馴れた様子で下着ごとアリスのチノパンを引き下ろした。火村は再び首筋に顔を埋めながら、アリスの腰を引き上げて、今度は直接アリスのモノに手をかける。
「止めって!こんな昼まっから何をサカってんねん!」
「もうその気になっちまったんだ。諦めろって。あんまり大きな声出すと、聞こえるぜ?」
開け放された窓と、廊下側のドア。声を出せば下にいるばあちゃんに丸聞こえだろう。アリスはぎょっとすると、慌てて口をつぐんだ。
「そうそう、それでいい。静かにしてろよ?」
「……っつぅ……うっ……」
前を弄りながら耳をべろりと舐める。身体を支えていたアリスの両手ががくりと力を失って、上半身が畳に落ちた。腰だけ高く上げさせられるような体勢にアリスは首を振る。アリスの弱いところを知り尽くした火村の手淫は、あっという間にアリスの身体から抵抗を奪い去った。
「火……村ッ……」
「何?どうして欲しいんだ」
意地悪くアリスに聞き返す。どうしてほしいかなんて、まだ理性を残したアリスが言えるわけ無いのに。
「なあ、どうして欲しい?お前がして欲しいことをしてやるぜ?」
「…………」
ただ首を振るだけのアリスに、火村は少し不満げに唇をゆがめて、それからすばやくGパンの前を寛げた。既に形を変えているモノをアリスのむき出しの尻に押し付ける。大きく開かせた脚の間に身体を押し入れて、双丘の狭間に猛った自身を何度も擦りつけた。
「なあ……どうして欲しいんだよ。ご機嫌斜めのアリスのために、俺がなんでもしてやるって言ってるんだぜ?」
「う……あっ……」
火村は畳にギリギリと爪を立てているアリスの腕を取ると、窓枠につかまらせた。Tシャツは着たままで、下半身だけむき出しになった姿で、尻を火村に差し出すように突き出している。脚を大きく開かせて双丘に手をかけると、既にひくついている後菊に舌をねっとりと這わせた。
アリスの前がこぼし始めた体液を指に絡めて、入り口からゆっくりと挿入する。火村の指を締め付ける部分を、何度も舌で愛撫すると、アリスの口から嬌声が漏れ始めた。
「あっ……ふぅっ……あっ!んぁっ……あっ……」
全開の窓のすぐ側で行為に及んでいることなんて既にアリスの頭からは抜け落ちているに違いない。首を振って快感に耐える様は火村の情欲を十分に煽る。徐々に緩んできた入り口に含ませる指の数を増やし、激しく出し入れする。火村の節ばった長い指がアリスのいいところに触れる度にアリスの背中が反り返る。火村はアリスの太股に自分を擦りつけながらアリスの中に含ませた指をグッと折り曲げて、そのまま勢い良く引き抜いた。
「あうっ!あああっ!」
一際高い嬌声を上げながら、アリスが果てた。
畳に白濁を散らして、アリスが崩れ落ちる。
「ほら、アリス。まだ足りないだろう?アリスは指だけじゃあ満足できないもんなあ?」
ぐったりとしているアリスを背後から抱きしめる。
「なあ、どうして欲しい?お前が望むなら、なんだってしてやるぜ?」
「あ……ひむ……ん…………・いて」
「ん?なに?」
ハアハアと熱い息をつきながら、アリスが擦れた声で懇願する。
「俺……い……・あ……な……顔……・わ…………んで」
「っつ……・!!」
アリスの腰を強引に持ち上げると、火村は一気に捻じ込んだ。
「ひっ……・あうぅぅっ!」
アリスが息を整える間も与えずに、律動を開始した。無意識に逃げようとするアリスを力ずくで押さえつけ、腰を突き上げる。
「あっあっあっ……」
「う……・フゥッ……・っく……」
火村が一際激しく突き上げ、アリスの最奥を犯した瞬間に、アリスの内部が火村を食いちぎらんばかりに締め付けた。
「アフッゥッ!」
「っく……・」
ぐったりと畳に身を横たえたアリスを見て、火村はグシャグシャと若白髪の混じる髪をかき混ぜた。
『俺以外にあんな顔で笑わんで』
アリスが珍しく見せた、独占欲。
「参ったね……」
盛りのついた高校生じゃあるまいし、たった一言であれほどまでに煽られるとは。
いつもアリスは周りにもっと愛想をよくしろと口うるさい。だからヤキモチを焼くのは大抵火村の役目だ。
だから下宿にまで学生を上げたことでヤキモチを焼いているらしいアリスに、ちょっとうれしくなってちょっかいをかけたのだ。窓やドアを開け放したままであそこまでやる気は無かった。ちょっと焦らして、あとは隣の部屋の布団の上でする気だったのに。
アリスの素直な一言を聞いた途端、服を脱ぐのも、ドアが開いているのも忘れて一気にコトに及んでしまった。
「参った……」
ミイラ取りがミイラになった……
目が覚めたアリスは、自分が口走ったことを覚えているだろうか?
火村の顔に笑みが浮かぶ。
『あんな顔で』って、どんな顔だか知らないけどさ。まあそれは、目覚めたアリスからたっぷり聞くことにしよう。