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27歳の二人。ハジメテ物語。R18。

 講師になって火村は初めて自分の研究室を与えられた。
 研究室と言っても教授たちよりはずっと狭い部屋で、必要な書籍を並べ机を入れればあとはもう人がなんとか通れるといった部屋だった。それでも、教授の研究室の片隅に机を置いて論文を書いていた頃に比べれば気の使い方もまるで違う。部屋が狭いのだってやたらと学生が集まって来ないだけ都合がいいと火村は思うことにしていた。
 教授には新しい助手がつくことになったので今までよりも雑用をすることもグッと減って、火村はかなりの時間を自分の研究に割けるようになった。(もちろん、慣れない助手よりも火村の方が仕事が速いので未だに教授や助教授は火村にいろいろ仕事を頼んではくるのだが)大学内での地位が上がると、これほどまでに優遇されるのかと、たかだか講師の立場で思ってしまう。権力抗争には興味は小指の先ほどもないけれど、研究に専念できるのであれば早く上に上りたいと火村は思った。
 講師になれば当然教員として採用されているわけで、講義を受け持つことになる。火村は社学の新入生の必修科目である現在社会学入門の講義をする為に、6号館へと向かった。
 入学式から二ヶ月。新入生の中にも既にやる気のあるものと、惰性で社学を選んだものとがはっきりと別れ始めてきた。火村が教室に入ると、前方の席には見慣れた学生たちの顔が並んでいて、後方の席にはたまに見かける(あるいはまるで見覚えのない)学生たちが座っていた。
 教授の中には毎年同じレポート、試験を行う人もいる。そういう教授たちの情報はすぐに学生の間に広がり、問題用紙やレポートがコピーされ学生の間に回される。火村は今年になって初めて講義を持ったし、学生たちは今年初めて火村の授業を受けている。火村はレポートや試験の採点をかなり厳しくするつもりでいるがまだ其のことに気づいていない学生たちがたくさんいるのだろう。火村は出席さえしていれば単位を与える教授や、いい加減なレポートでも枚数が達していれば「可」を与えるような講義をする気もない。この中のどれくらいが前期の試験を終えた後で残っているのだろうか。
 教壇に立ち、ぐるりと教室内を見回す。
 必修の授業だから教室は広い。ピンマイクを胸元につけて講義を始めた。
 火村は授業中に「授業の邪魔にならなければ」何をしていようが構わないと思っている。私語をする者は容赦なく退席させるが、そうでなければ寝ていようが内職をしていようが火村は注意しない。好きにすればいい。真面目にやらずにいてテストが出来なければ単位をもらえないのは自分自身であることにすぐに気がつくだろうから。
 講義を始めてしばらくしてから、火村は教室のドアがゆっくりと開くのを見つけた。火村の授業では遅刻は厳禁だ。注意して退室させようとして、火村は相手が学生でないことに気がついた。
 こそこそと入ってきた其の人物は、一番後ろの空いている席にすばやく腰掛けた。周囲の学生たちは火村が其の人物を注意しないことに不思議そうな顔をしていたが、私語をすれば退席させられることを知っていたのでただ視線だけで会話を交わす。
『誰やろ?』
『さあ、見たことない顔やけど。スーツやで』
 其の人物はノートや筆記具を出す様子もなく、火村の講義を聴いている。時折ニコッとしているのがちょっと不審な感じではあるが。頬杖をつき、授業が終わるまで大人しくしていた。

「どうしたんだ?急に。仕事は?」
 授業が終わり、数人の学生の質問に答えた後、最上段の席から教壇までやってきた遅刻者に火村が話しかける。学生たちは興味津々と言った顔だ。
「京都の取引先に急ぎの納品があったから直接持って行ったところやったんや。そのまま直帰してええって言われてん。早く終わったから、君の授業を拝聴しようかと思って」
「拝聴ねえ……其の割には頬杖ついてぼんやりしてたみたいだけど?」
 火村がヒョイと眉を上下させると、アリスはエヘへ、と誤魔化すように笑って火村の授業用の資料を受け取った。
「今の学生さんはええね。君の講義が受けられるなんて」
「何言ってんだ。お前なんか学生時代専属の講義やってやったじゃないか」
「教壇に立って講義するのとはまたちゃうやん」
「なんだ、惚れ直したか?」
 にやけた火村の言い方にアリスはアホかッと突っ込みを入れる。
「一年目とは思えんほど落ち着いて授業しとったな。君は人にもの教えるのがうまいなあ」
 それはアリスの本心だ。学生の頃随分と試験前にお世話になったけれど、火村の教え方はスパルタだけどとてもわかりやすい。暴言と侮辱に耐えられれば、だけれども。
「ところでな、君、今日時間あるなら一緒に飯食わへん?」
 此処のところ年度初めの忙しさで中々アリスと会う機会がなかった。最後に会ったのは、アリスの小説がゴールデンアロー賞の佳作を取り、サラリーマンとの二足の草鞋ではあるけれど作家デビューを決めた祝いのときだった。
「ああ、構わないぜ」
 頷いた火村をアリスが上目遣いでチラリと見やる。アリスがこういう顔をするときは何かお願い事があるときだと火村は経験上知っていた。
「なんだ?奢らねえぞ?」
「ちゃうもん。…………実はな、その、三谷も一緒やねんけど……ええかな?」
「…………」
 心臓が止まるかと思った。 
 半年前に三谷に口説かれ、その時には断ったもののそれからもアリスはちょくちょく三谷と会っているらしい。仕事の関連もあるし、あくまでも友人としてだといわれれば火村には口を出す権利などない。もういい加減大人なのだからあまり口やかましく言うのもアリスに対して失礼だろうという配慮もある。
「別に構わないが」
 三谷と親しくすることにあまりいい顔をしない火村を気遣ってか、アリスも今まで三谷のことは話題にしないようにしていたのだが。
「実はな……」
『まさか……付き合うことにしたとか言わねえだろうな……』
 ひやひやしている内心を押し隠す。
「三谷が君に会いたい言うてんねん」
「何で?」
「さあ?」
 小首をかしげたアリスは本当に判らないようで、火村は少なくとも『僕たち、付き合ってます☆』などという爆弾発言を聞く心配はなさそうだと胸をなでおろした。
 
 三谷が食事場所として指定してきたのは、以前アリスと食事をした嵐山の和風レストランだった。
「どうも、三谷です」
 そう言って差し出された手を拒否するわけにもいかないから、火村は社会人として当たり前の反応を示した。
「火村です。初めまして……ではないですよね」
「ええ、以前に一度」
 アリスのアパートの前で。
 三谷の向かい側に火村が座ると、三谷はさりげなく自分の隣のスペースを空けた。アリスはそれに気がつかなかったように火村の隣に腰を下ろす。火村も、それに気づかない振りをした。
 三谷はアリスの言うように、至極紳士的な人物だった。が、時折チラリと見せる此方を観察するような視線が火村はどうにも気に食わない。尤も、火村の方はといえば、観察するそぶりを隠しもしないのだから文句を言うのは筋違いかもしれないが。
 それでも表面上は穏やかに食事は進み、テーブルの上の料理が粗方片付いた頃アリスが席を立った。
「いつも有栖川からお噂をお伺いしています。いやもう、何かというと火村が火村が言うてましてね」
「どうせ悪口ばかりでしょう?」
「そんなことはありません。優秀やって自分のことのように自慢してましたよ。そういえば、昇進なされたそうですね。おめでとうございます」
 そう言われて火村は少し驚いた。アリスはそんな話までしているのか。
「どうも……まあ……言っても講師ですけれど」
「僕らの年で英都大学の講師やなんて、出世株やないですか」
 笑顔でそう言った三谷がスッと目を細めた。
「私は私の研究をするだけです。上に行くことはそれに付随してくるものに過ぎません。しかしまあ、社会的地位というものは研究に役立つことも多いですからね」
「…………へえ、流石にオトコマエなことを言いますね。自分に自信があらへんと出てこん言葉やわ」
 皮肉気に片頬を持ち上げる。頬杖をつき、髪を掻き上げ眼鏡を直した。気障な仕草だ、と火村は鼻を鳴らした。
「有栖川があんまり持ち上げるもんでね、一体どんな男やろと思うてたんです。彼と話しているとほんまによう火村さんの名前が出てくるんですわ。……正直、妬けます」
「…………そうですか。どうです?実際見てみてのご感想は?」
「ええ男ですね。有栖川の保護者にはもったいないくらいや」
「保護者?あいつは大人ですよ、保護者のいる年じゃないでしょう」
 お互いに、会話をしながら笑みを絶やさない。
「そう、もう大人や。彼が誰と付き合おうが、彼の問題やと思いませんか?」
「…………」
「有栖川はなぜだか火村さんに気を使っているようなんでね。まあ学生時代からの親友て言うし、気ぃ使うのも判るけど。小学生の女の子やないんやから、自分以外と仲良くしないで、なんてのはどうかと思ってね」
「馬鹿馬鹿しい。俺はあいつの交友関係にやたらと口を出したりしちゃいない」
 三谷は「これは驚いた」というような表情をわざとらしく顔に出した。
「有栖川は誰かに俺と2人きりで酒を飲むのを禁止されているらしい。俺と2人で食事をするときは殆どアルコールを口にしない」
「…………」
「誰が禁止しているんやろう?火村さん、ご存知ですか?」
 わざとらしい問いかけには答えず、火村はキャメルを取り出した。三谷はテーブルの端から灰皿を差し出した。
「……俺は有栖川に惚れてる。彼と、寝たいと思う」
「…………」
「あんたが余計なことを言わなければ、彼は俺と付き合うはずや。この半年で俺と有栖川の距離は随分近づいた」
 だからもう、手を引けと言うことか。
 火村はフン、と鼻を鳴らした。
「…………一つ言っておこう」
「…………なんや?」
「あいつはとんでもなく頑固でね。もし本気であいつがあんたに惚れてるんだったら、たとえ俺が止めたとしてもあんたと付き合うだろうよ。あいつが俺に気を使ってあんたと付き合わないんだとしたら、それは、アリスにとってあんたより俺のほうが大事だからだ」
 視界の端に、アリスがトイレから戻ってくるのが見えたが、火村は言葉を止めなかった。

「あんたにアリスは渡さない」

 今、火村はなんと言った?
 テーブルの脇に立ち尽くしてアリスはぼんやりとしていた。
 トイレから戻るとなぜだか火村の機嫌が酷く悪そうに見えた。表面では笑みを浮かべているけれどアレはかなり怒っている顔だ。そう思って慌てて席に戻ろうとした。そして、「どうしたんや?」そう声をかけようとした瞬間、聞こえてきた火村の声。
「あんたにアリスは渡さない」
 テーブルを仕切るつい立の向うからざわざわとした周囲の物音だけが聞こえる。誰も、口を開かない。
 沈黙に耐えかねてアリスが声を出そうとしたとき、三谷が柔らかく苦笑した。
「有栖川。聞こえたやろ?」
「え……あ、えっと……」
「余計なお世話やろうとは思うたけどな」
「え?……な、何?どういうこと?」
 三谷は立ち上がり伝票をつかんだ。
「此処は奢ったる。ま、作家デビューの祝いだと思ってくれ」
 そういってチラリと火村に視線を投げた。
 其の瞬間、状況を理解した火村が眉を顰めた。完全に乗せられたのだ。
「あんたがうまくやらんのやったら、俺がもらうから」
「…………判ってる」
 渋々頷いた火村に三谷はにやりと笑いかけ、それからアリスの肩に手を乗せた。
「愛想が尽きたらいつでもおいでや」
 それからすばやくアリスの頭を抱き寄せて額にキスをした。
「!!」
 ガタンッ!と音を立てて火村が立ち上がる。三谷は笑って両手を降参、の形に挙げてテーブルを離れていった。
「…………な……に?」
 わけが判らないままのアリスの手を火村は乱暴につかむと、アリスのジャケットを持たせて舗を出た。
 無言のままバス停まで歩き、バスを待つ。嵐山から北白川まではかなり距離がある。バスも乗り換えなければならない。
「車があればいいんだけどな」
 ぼそりと火村が呟いた。
「すぐに上に行く。そうしたら、車を買うんだ。今よりもっといろんなところに行ける」
 ギュッと手を握って火村はそう言った。バス停には灯りもなくて、表情は良く見えないけれど、アリスは火村が緊張しているのが良くわかった。だから、アリスは火村の手をギュッと握り返した。
「ドライブするんやな。一緒に」
「……ああ、そうだな」
 もういい大人の男2人が、手を繋いでいるなんて滑稽なことこの上なかったけれど、やっと状況を理解したアリスは火村の手を離さなかった。
 三谷は待つといってくれていたけれど。それでもきっと、苦しかったのだ。
 いつまでも変わろうとしない2人に発破をかけようと火村に会いたいなどと言い出した。そうして、火村が本当にアリスをただの友人としてしか見ていないのであれば、その時はきっと、もう一度アリスを口説こうとしていたのだ。
「……三谷のことやけど……」
「うん……」
「ええやつやろ?」
「…………ああ、そうだな」
 握り締めてくる火村の掌は熱かった。やがてバスが来て繋いだ手は離されたけれど、アリスは火村の感触が残る掌を下宿につくまでギュッと握っていた。


下宿に帰るとばあちゃんはもう寝ていた。アリスは出来るだけ静かに風呂に入り、火村の部屋に行く。
 火村は本の間に埋まるようにして本を読んでいた。アリスが側に座ると、小さく息をついて顔をあげ、パタンと本を閉じた。
「アリス」
「うん」
「…………アリス」
「…………うん」
 火村の長い指がアリスの頬を撫でた。アリスは気持ちよさそうに目を閉じる。火村の指は、微かに震えていた。
「はは……かっこ悪いな。震えてる」
「…………火村。どうしよう、俺、泣きそうや」
 ポスン、とアリスは火村の肩口に顔を埋めた。
「アリス……好きだ」
 アリスは火村のシャツにしがみ付いて小さく頷いた。
 二間続きの奥の部屋には、既に布団が引かれていて、アリスは恥ずかしさで卒倒しそうになった。知らん顔して本なんて読んでいたくせに、ほんとはやる気満々やないか……
「ひ……ひむらっ。ばあちゃんが……」
「もう寝てるから大丈夫だと思うけど、でもあんまり声出すなよ」
 そんなこと言われたって、抱かれる立場なんて初めてなんだから出来るかどうかわからないじゃないか。困ったアリスの顔を見て、火村は照れたように笑った。
「めいっぱい声出してくれた方が俺は嬉しいけど。アリスは嫌だろ?」
 ばあちゃんに聞かれるの。
 そう言われたら仕方がない。大体ばあちゃんだって店子が男の恋人連れ込んだなんて知りたかないだろうし。
 借り物のTシャツの中に手を差し込まれて、アリスはヒッと息を止めた。火村は強張ったアリスをあやすように口付ける。初めは軽く、それから深く。息が上がるほどの長く濃密な口付けをしながら、アリスの身体を弄る。シャツを脱がせ、胸元の突起に唇を寄せる。ドクドクと早鐘のように鳴るアリスの心臓の音が聞こえた。火村は其の音をもっと聞きたくて、アリスの胸に耳を当てた。
「ひ……火村?な・・・に?」
「ドキドキしてる」
「あ、当たり前やろ……馬鹿にしてっ」
「馬鹿になんてしてない…………嬉しいんだ」
 アリスの身体は温かく、火村は自分があれほど緊張していたのにアリスの身体に触れているうちにその緊張が解けていくのを感じた。代わりに満ちてくる暖かな想いと、火傷しそうなほど熱い昂ぶり。愛した相手を其の腕に抱くことがこれほどまでに満ち足りたものであることを火村は初めて知った。
「アリス、アリス……好きだ……」
 うわ言のように何度もアリスの名前を呼んだ。呼ぶ度にアリスの身体が震え、火村の声に応える。
 ゆっくりと体中を指でなぞり、其の後を唇が追う。アリスの白い身体に赤い華を散らしていく。首筋に、胸に、わき腹に、腹に、腿の内側の柔らかい皮膚に。
「ひ……火村…………灯りを、消してくれ。明るいのはイヤヤ、恥ずかしい……」
「嫌だ。見たい」
「火村っ、お願い……お願い……電気っ」
 泣きそうな顔で頼むから、火村は仕方なく起き上がって電気を消した。カーテンの隙間から差し込む月明かりだけがアリスの身体を白く浮き上がらせる。あと2年もすれば30になる男がまるで十代の少女のように恥ずかしがる様はきっと他人が見たら滑稽だろうけれど。火村にとっては庇護欲と嗜虐心の両方を揺すぶられる姿だった。
「ほら、電気消したぞ。これでいいか?」
 火村は服を脱ぎ、アリスに再び圧し掛かった。素肌の触れる感触にアリスが身じろぐ。僅かに躊躇した後でアリスは火村の背中にそっと手を回してキスをした。

「ん……あっ……あ、やぁっ……」
 火村の指が身体を這う度にアリスの身体が跳ね上がる。
「アリス、ほら、腰上げてくれ」
「はぁっ……やだっ……」
 うつ伏せにされて背後から抱きしめられていたアリスは、火村が腰を抱え上げようとするのを恥ずかしがって身を捩った。嫌がるアリスの足を自分の足で広げ、背中からゆっくりと唇を這わせる。双丘の始まる部分をねっとりと舐め上げるとアリスの腿にビクリと力が入る。グッと肩を押して布団に顔を押し付けさせ、腰を上げさせて尻だけを持ち上げさせると、アリスは嫌がってもがいたけれど火村は構わずに双丘の間に舌を滑らせた。
「やぁぁっ!そんっ……なとこっ……やだっ」
「だって濡らさないと入らないじゃないか」
「は……はい・る?」
 判らない、というような声を出したアリスに火村は一瞬眉を顰めた。
 まさか、男同士のセックスは何をするのか知らないのか?此処までやっておいてそれはないだろう……
 どうしても嫌だといわれれば火村はアリスに無理強いをすることなんて出来ないのだから、我慢するしかない。でも正直言って我慢するのはかなり、非常に、大変に、困難だ。
「……なあ、アリス?俺に任せてくれないか?出来るだけ優しくするから」
「……だ、だって……こわ……い」
「大丈夫だ。俺を信じられないか?」
「…………」
「続けていいか?」
「う……」
 ほんの僅かに頷いたアリスを見て、とりあえず拒絶するまでやってみようと火村は再びアリスの後ろに舌を這わせた。
 再開された愛撫に身体を硬くしたアリスの腿を火村は優しく撫でてやる。アリスの身体から少し力が抜けてきたところで火村はアリスを驚かせないようにゆっくりと前に手を伸ばした。
「ひぁっ……あうっ……」
 後ろを舐められながら前を愛撫され、アリスはシーツに顔を埋めながらうめき声を上げた。声を出さないようにがんばっているようだ。
 火村は充分に唾液をアリスの蕾に塗りこんでから顔を上げ、長い指をツプリと差し込んだ。何かを含んだことなどない場所は、ギュッと口を閉めて抵抗してくる。第一関節まで含ませて、再び舌を這わせる。
「あっ……あっ……イタッ・・・」
 痛がって身を捩るアリスを宥めながら、何度も指を含み広がった襞を舐めて唾液を中に流し込み、アリスの呼吸に合わせて徐々に指を進める。まさかいきなりこんな風になるとは思いもしなかったから、潤滑油を用意していなかったのは失敗だったな、と火村は思う。次は絶対に用意しておこう……
 それでも根気良く愛撫し続けると何とか指を全て収めることが出来た。
「まだキツイか?」
「う……あ……い、痛くは……ないけど……へ、変な感じ……する」
 苦しげな息をつきながらアリスが言う。
 火村はアリスの中の指をグルリとまわしてみる。内部は熱く、ぎゅうぎゅうと締め付けてくる入り口とは違って絡みつくように柔らかい。火村はごくりと喉を鳴らしてため息をついた。熱い息が肌に触れたらしく、アリスがギュッと締め付ける。
 火村はアリスが痛がらないように気をつけながら中を探る。
「んっ……あっ……や、やっ……!」
「ココか?」
 アリスが背中を反らして喘いだ。火村がアリスが反応する場所を重点的に攻めると、先ほどまで異物を排除するように閉じていた口がヒクヒクと蠢き始めた。
「指、増やしても平気そうだな……」
「あ……え?む、無理……」
「大丈夫だって。ホラ……もう二本入ったぜ?これならもう一本くらい大丈夫だな」
「うああっ……あっ……あっ……ひぅっ……」
 火村が指を出し入れするたびにアリスが声を上げる。含ませた指はアリスの内部の熱と蠢きを火村に伝え、火村をどうしようもなく高ぶらせた。
「アリス……悪い、そろそろ、俺も、限界なんだけど……いいか?」
 先ほどまでの愛撫で耳が弱点だとわかっていたから、火村はわざと低い声をアリスの耳元に吹き込んだ。アリスの太腿に自らの昂ぶりを押し付けて既に濡れ始めている先端をこすり付ける。
「あ……」
 アリスは赤い顔をこれ以上ないくらい赤くして、おどおどと頷いた。
「い、痛く、せえへんよな?」
 いい年した男が「痛くしないでね?」なんてみっともないと思ったけど、最初に指を含まされたときのことを考えるとつい口から言葉が漏れてしまった。
「判ってる。優しくしてやる、とびっきりに」
 それでも少し怯えているアリスを驚かさないように背中にキスを降らせながら背後から抱きしめて、ことさら太さを感じさせながら指を引き抜いた。
 アリスの前に回した手でアリスのモノをしっかりと握り締め、先ほどまで指を咥えこんでいた部分に熱く猛った昂ぶりを押し付ける。火村の先端に滲んでいるものと、唾液でアリスの背後はクチュクチュと音を立てていた。火村はしっかりとアリスを抱きしめて、髪にキスをしながら腰を推し進めた。
「う……あぁ……あっ……うう……」
 火村が身体を進めるたびにアリスがうめく。それでもアリスは嫌だとも痛いとも、止めてくれとも言わなかった。痛くないはずがないのに。火村はアリスの中の熱さと、自分を受け入れようとしてくれるアリスの優しさに思わずイッてしまいそうになる。
「はぁぁ……」
 流石にアリスより先に行くのは申し訳がないので火村はグッと堪えながら時間をかけて最後までモノを埋め込んだ。ぴったりと胸にくっついたアリスの背中から、アリスのせわしない呼吸と心音が響いてくる。
「アリス……アリス……」
 耳元に名前を囁く。
「あ……ひ、……火村ッ……な、まえ……はぁっ……あ、あかん……」
 アリスがゆるゆると首を振る。身体を動かしたことで火村のカタチを感じたらしく、アリスの内部が激しく蠢動する。
「う……っくぅ……・ヤベ、イキそ……」
 想像の中のアリスよりも、ずっとずっとイイ。熱くて、狭くて、いやらしい。
 アリスが落ち着くまで待とうと思っていたけれど、そんなことをしていたら火村の方が先にダウンしそうだ。
「ゴメ……アリス、もう、動く」
「んっ……あっ……」
 一度動き始めたらもう止まらない。アリスが悲鳴を上げ始めても構わずに火村は腰を打ちつける。アリスももう階下に声が響くのを気にしていられるような状態ではなくなってきた。部屋にファルセットの声が響く。
「アリ・・スッ……はぁっ、はぁっ……」
 火村は、脱がせたシャツをアリスの口に加えさせ、更に腰を激しく動かす。さっき見つけたアリスのイイ場所ばかりを先端で抉るように腰を使うと、アリスはぎゅうぎゅうと火村を締め付けながら嬌声を上げた。
 火村が一層激しく腰を突き上げ、アリスの内部に熱を注ぎ込むのと同時に、アリスもまたシーツに白濁を吐き出した。


 響きのよいバリトンが何かを言っているのが聞こえて、アリスは目を覚ました。
 もぞもぞとキャメルの匂いの染み付いた布団から少しだけ顔を出すと、火村が着替えている姿が見えた。
 ああ、どうしよう。恥ずかしくて火村の顔が見れないかもしれない。ドキドキする。緊張する。する前も緊張したけれど、もしかしたらそれ以上に緊張しているかもしれない。
 火村の側ではハナがちょこんと座っている。どうやらさっきの声はハナと話していた声だったらしい。火村がまたハナに話しかける。其の声があんまりご機嫌なので(少なくともアリスが聞いた火村の声の中では一番ご機嫌かも知れない)アリスは布団の中でジタバタともがいた。
 もぞもぞと動いている布団が気になったのだろうか。ハナが布団にごそごそと入り込んで来た。
「う、わあ……ハナッ、やめてや~」
 素肌に触れるひげがくすぐったい。慌てて布団から這い出ると、火村がこっちを見ている。
「あ……お、おはようさん……」
「おはよう」
 どうしたのだろう。さっきハナに話しかけているときにはあんなにご機嫌だったのに、なぜだか火村の機嫌が下降しているようだ。
「?あの、火村?」
 火村はムッとした顔のまま布団に来て、それから思い切り布団を剥ぎ取った。
「ギャッ!火村っ、返してっ!」
 布団の下は素っ裸なのだ。アリスが赤面しながら剥ぎ取られた布団と取り返そうとすると、火村はあっさりと布団をアリスに渡した。それから丸まっているハナをヒョイと抱き上げると部屋の外に出してドアを閉めた。
「……火村?」
 再び戻ってきた火村は布団に座り込んでいるアリスの側にしゃがみこむと、いきなりガバリと抱きしめる。
「わぁっ……」
「俺が起こそうと思ったのに……」
 アリスは耳を疑った。
「なんで先にハナなんだよ……」
 いじけたような口調はまるで火村らしくなくて。アリスは思わず噴出してしまった。
 イタシタ後に顔を合わせるのが恥ずかしくて、緊張していたのは、アリスだけではなかった。先に目を覚ました火村はどうやってアリスを起こそうか色々と考えていたのに、まさか、愛猫に先を越されるとは思いもしなかった。
「ちょっと、火村……」
 背中に回された手が徐々に下に下りていくのを感じてアリスは必死で火村を引き剥がそうとする。昨日の疲れが抜けなくて体中がたがたなのに、これ以上されたらたまらない。それに、暗闇でするのだって死にそうなくらい恥ずかしかったのに、明るい朝の光の中でなんて絶対に無理。出来ない。
「嫌やって、火村……んっ……ヤダッ……」
 いつの間にか布団に押し倒されて、火村が深く口付けてくる。嫌だ、と言ってはいるものの、まだ体力が回復していない身体は抵抗らしい抵抗も出来なくて。火村の手が本格的な愛撫を始めようかと動き始めたとき、
「火村さん、帰ってはるの?」
階下から聞こえてきた声に、ピタリと動きを止めた。2人で目を見合わせる。
「火村さん?」
「は、はいッ」
 慌てて起き上がった火村が階段を下りていく。
 階下から聞こえてくる火村とばあちゃんの会話に、アリスは知らず微笑んでいた。この先何度もこんな朝を迎えるのだろうか?
 さっき火村に追い出されてしまったハナが再び火村の部屋に入ってきた。来い来い、と手招きすると、トテトテと軽い足音を立ててアリスの側にやってくる。
 本当は、アリスを起こしたのはハナじゃなくて火村の声だったのだけれど。
「恥ずかしいから火村には内緒にしとこな?」
 アリスの声に、ハナが小さくニャッと応えた。



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