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「じゃあ、9時に鳥居んとこ集合なー」
「おー」
みんなでぞろぞろいても動き難いので、とりあえず自由行動で各自好きなものを食べるなり遊ぶなりすると言うことになった。
「7時半から花火やるらしいで」
「おっ、やったらもっと見えるトコ行こうや」
ワラワラと散っていく仲間を見送って、火村はアリスを見た。
「さて」
「なん?」
「足、見せてみな」
「え?」
「痛いんだろ?捻ったか?」
「いや…………その、靴擦れが……」
「靴擦れ?」
「草履の鼻緒に慣れへんねん」
アリスは困った顔をして火村のシャツを握っている。
「鼻緒か……」
捻ったわけではないようだと安心したけれど、靴擦れは結構辛いだろう。
トンっと背中を押しのけられて、火村は自分たちが人通りの多い所に立っているのに気づいた。間もなく花火が始まるから、みんな花火が見えやすい場所に移動しているようだ。
「とにかく座れるところ探そう。少し歩けるか?」
「うん」
火村はあたりを見回してから、参道から通じている細い道を進んだ。
しばらく言ったところにある人気のない社殿の階段に腰掛けさせて、火村はアリスの足元にしゃがみこむと草履を脱がせた。
アリスの足の指は鼻緒で擦れて小さな水ぶくれが出来ていた。
「痛そうだな」
「痛い」
「我慢しないで直ぐに言えばよかったのに」
「やって、かっこ悪い」
「バカ」
呆れたように眉をヒョイと上げた火村は、スニーカーを脱いでアリスに渡した。変わりにアリスの草履を履く。
「ホラ、これ履いてろよ」
「君は?」
「俺は普段から結構草履履いてるから。玄関に古いのがあるだろ」
そういえば、下宿の玄関には古びた草履と下駄が置いてある。夏場の暑いときに火村が甚平を着て草履で買い物に行っているのを見たことがある。
「前にいた奴が置いていったんだ。涼しくていい」
「へえ……」
アリスの足元にしゃがみこんでいた火村が上目遣いでアリスを見る。
「…………なに?」
草履を脱がす為に持ち上げたとき、僅かに乱れた浴衣の裾から覗く膝に唇を寄せる。
「っ……火村!」
「…………」
そのまま腿にまで手を差し入れて、火村は腰を浮かせた。
周囲には、人気はない。
ドンッ!という音がして頭上が明るくなった。
「火村、花火……」
「ああ。そうだな」
腰をアリスの脇に膝をついてアリスを抱き寄せる。
「火村……」
「誰もいないさ」
抱きしめられて、そのまま首筋を舐められた。
「ちょ、ちょっと……火村ッ」
こんなところでするなんて、幾らなんでも無理だ!
アリスは必死で火村の肩を押して逃げようともがいた。
「大人しくしてろよ。浴衣が崩れるぜ?せっかくばあちゃんに着付けてもらったんだろ」
「き、君が変なことせえへんかったらええんやろ」
そう言う間にも火村の手はアリスの身体を弄り。浴衣の中に潜り込んでくる。
「んっ……ふぅっ……」
深く口付けられて息が上がる。気温のせいだけでなく酷く身体が熱い。
「アリス……」
耳元で囁く火村の吐息も熱く、アリスはぶるりと身体を震わせた。
「ほっ、本気でっ……?」
「本気」
「でもっ……みんなが……」
「こんなところに来るもんか。待ち合わせまで1時間半あるし」
祭りに来ている人たちはみんな花火を観に行ってしまっている。ここは周りが林になっているから花火もよく見えないし、出店も遠い。こんな神社の裏手になんて誰も来やしないのだ。
「……誰かが来たら……」
既に裾を割られて足を露にしているくせに、まだ往生際の悪いことを言っているアリスをアリスはキスで黙らせる。脚の間に身体を入れて、グッと身体を押し付けた。
「そんなに気になるなら、中に入るか?」
火村が指したのは社殿だった。
「じょ、冗談っ。バチが当る!」
「ばーか。誰が当てるんだよ。まあ不法侵入で捕まって怒られるくらいはするかもな」
居もしないものがバチなんて当てられるもんか。叱られるとすればそれは神社の神主にだ。
「どうする?此処で抵抗しても俺はやめない。外でするか、不法侵入するか」
「そ、そんな二択……」
下宿まで我慢するとか、そういう選択肢はないわけ?
「ない。今日は本田が隣にいる。下宿じゃ思い切り出来ないし」
「こんなところで思い切りする気なんか!」
「此処で手加減するのは構わないんだよなぁ。なんていうか、こう……」
そういうプレイみたいな?
「あ……アホや……」
火村はすっごく頭がいい。なのに、時々果てしなくアホになることがある。そしてそういう時は大概アリスが被害を蒙るのだ。
「どうする?」
「どうするって……」
アリスが困惑していると、火村がアリスから身体を離した。あ、止めてくれる気になったのかしらん?
が。期待もむなしく火村はアリスの手を引くとさっさと社殿の扉を開けて中に入った。
社殿の中は薄暗く、埃っぽかった。板張りの床の上には小さな神輿がおいてある。其の隣には茣蓙がたたまれて置いてあり、幾分スペースがあるからおそらく昼間使われていた神輿が置いてあったのだろう。場所的にもこの社殿が本殿や拝殿とは思われないので、ここは倉庫なのかもしれない。
「火村。ま、まずいって」
「明日も祭りはあるんだろ。この時間に戻ってこないって事は今日は神輿は此処には仕舞わない。大丈夫だ」
「なっ……そ、その自信は何処から来るねん」
火村はどうでも良さそうに肩を竦めてから、火村は掴んでいたアリスの腕をグイっと引っ張って、たたんで置かれていた茣蓙に押し倒した。
「んわっぁっ!」
小さくはない男2人が寝転ぶほどのスペースはないので、火村はアリスの身体を壁に寄りかからせて脚を開かせた。
「火村ッ……」
「大人しくしてろよ」
ニヤリとたちの悪い笑みを浮べて、脚の間に身体を押し込む。噛み付くようなキスをすると、アリスは少し抵抗し、それから大人しくなった。
「諦めた?」
「……もう、ええからさっさとして」
火村はやるって決めてるみたいだし、これ以上抵抗して長引かせたら待ち合わせに遅れてしまう。うっかり探しに来られたりしたら目も当てられない。
するりと両手を火村の首に回して抱きしめた。
「浴衣、着崩れたら承知せえへんからな」
「判ったよ」
湿った音を立てながらキスをする。浴衣の下に入り込んだ手が下着の上からアリスを撫でる。上半身への愛撫をしていないせいかいつもよりも性急な感じがする。
「んっ……ふあぁっ……」
長いキスで息が上がる。火村は唇を首筋や鎖骨に落とす。チクリと鎖骨の辺りに痛みが走った。
「イタッ……アホッ!ゆ、浴衣着てんのにそんな所に跡付けんな!」
「判ったから殴るなよ」
火村は渋々アリスの首筋から顔を上げると、身体を下方にずらした。浴衣に頭を突っ込むようにして、下着の上から既に形を変え始めているアリスのモノにキスをする。
「あっ……」
もどかしい愛撫にアリスの腿が火村の頭を挟みつける。火村はアリスの内腿の柔らかい部分に吸い付いた。
「火村っ……跡……」
「こんなところ、俺以外に見せることないだろ」
火村はアリスの腰を上げさせて、下着を一気に引き下ろした。立ち上がったアリスを握ると、アリスの身体が跳ね上がり、手の中のモノが勢いづく。
「やぁっ……あっあっ……」
先端からタラタラと零れている液体を下から舐めあげて、火村はアリスを口内に導いた。柔らかく熱い感触に、アリスの腰が揺れる。壁に寄りかかっていたアリスの身体はズリズリと降りてきて、いつの間にか寝転んだ状態で腰を火村に高く上げられているような格好になっていた。
「ふぁっ……いぁっ……」
耳に届く湿った音。アリスから溢れる液体と火村の唾液が混ざり合ったものが、尻の間に伝わっていく。其の感触すら感じてしまって、アリスの唇からは擦れたうめき声が漏れる。
「アリス……」
もう直ぐにでもイッてしまいそうなほど膨れたアリスの先端にチュッとキスをして、火村はアリスへの愛撫を止めた。アリスが帯の間に挟んでいた手ぬぐいをアリスのモノに被せる。
「浴衣、汚したくないんだろ?」
「う……」
イきそうなところで止められて、アリスは涙を浮べて火村を見た。そりゃ、浴衣は汚したくないけど……
火村はジーパンを脱いだ。汗で張り付いたジーンズが脱ぎ難い。やっとジーパンを脱いで投げ捨てた火村に、早くしてくれと言うようにアリスが手を伸ばし、シャツの前を開いた。引き締まった腹が現れる。
火村はアリスの口に指を含ませた。
「舐めろよ」
「うっ……はぁっ……んっ……」
火村のモノを愛するときのように、アリスは丁寧に火村の長く形の良い指に舌を這わせた。唾液を絡め、舌と頬の内側で吸い付くように火村の指をしゃぶる。この指が、自分自身ですら触れないような部分を暴くのだ。
「もういいよ」
充分に濡れた指をアリスの口から引き出すと、火村はアリスの後に触れた。
「あっ……んっ」
幾度身体を重ねたところで、本来使うべきところではない部分に挿入するのだからと、火村はいつもソコをとても丁寧に解す。口では乱暴な物言いをしても、実際多少乱暴な愛撫をするときも、ソコを解すときだけは時間をかけてアリスを傷つけないようにする。アリスはそれを知っているから、その気が遠くなるような恥ずかしい時間を唇をかんで我慢する。
「まだ早いか……」
いつもよりも前戯の時間が短かったせいかアリスの後は熱くひくつきながらも、火村の指をきつく締め付けてくる。1本目は比較的容易に飲み込んだけれど、2本3本と指を増やすと動かせないほどにキツい。
「はっ……んっ、へ……いきやっ……」
「平気じゃないだろ……ほら、もっと力抜けよ」
「んっ……うあっ……」
ウエストを帯で締められているから上手く力が抜けない。それに寝転んだときに背中が痛いのだ。
「ひむらっ……」
「ん?どうした?」
テシテシと力の入らない手で背中を叩かれて、火村が顔を上げる。
「帯……いたい……」
「ああ……。ちょっと起き上がれるか?」
火村はそう言って一度指を抜くと、アリスをグッと持ち上げた。アリスは慌てて火村にしがみ付く。
「膝で立って……そうだ。辛けりゃ摑まってろよ」
アリスの腰を抱き寄せて、自分の足に跨らせる。向かい合うように抱き合って、火村は再びアリスの後に指を這わせた。ガクガクする脚で必死に身体を支えているアリスは、不安げな顔で火村にしがみ付いている。
さっき解した部分は熱を持ってヒクヒクと痙攣するかのように蠢いている。火村はゆっくりと指を2本差し入れた。
「うっ……あっ……」
「力抜いて、アリス。大丈夫だから。寄りかかっていい」
「んっ……」
上を向いたアリスのモノにかろうじて引っかかっていた手ぬぐいがするりと落ちた。火村はアリスの背後に手をやって帯をほどいて浴衣の前を思い切り開いてやる。浴衣が汚れればアリスがまた騒ぐのが目に見える。伊達締めを取るともう浴衣はかろうじて紐で縛られている状態で酷く淫猥な雰囲気になって火村は思わず喉を鳴らした。
「火村……」
キスを求められて、顔を寄せる。ちろちろと唇の間から覗く舌が官能的で、火村は噛み付くように唇を合わせた。
キスをしながら胸を弄る。きつく抓ると火村の指を含んだ後が絞りこんでくる。
「ふ……んふぅっ……」
水音をさせて、すっかり緩んでいるアリスの後菊から指を抜く。腰を抱き寄せて、ゆっくりと、既に育っている自分のモノの上に座らせる。アリスの呼吸を読み取って、ゆっくりと。
「んっ……んっ……」
指とは比較にならない大きな塊が競りあがってくる感触に、アリスの背中が反り返る。アリスの呼吸が落ち着くのを待ってから、火村は腰を突き上げた。
「やっ……ああっ……」
激しい突き上げにアリスの口から嬌声が漏れた。
「っく……すげぇ……」
いつもよりもきつい締め付けに火村は夢中になる。此処が、社殿だとか、いつ誰が来てもおかしくない状況だとか、そういうことは頭から抜けていてつい思い切りアリスを攻め立ててしまう。
「はっ……はっ……」
荒い呼吸。布の擦れる音。軋む床。尻を擦る茣蓙の感触さえが快感で、たまらない。
「あっあっ……んんっ……や、やあぁっ……」
アリスの声が大きくなる。
「はあっ……アリス……」
熱い吐息と共に呼ばれた名前に、アリスの背中に震えが走った。
「あんっ……ひぁっ……」
喘ぎすぎて声がかすれている。それがまた色っぽく、火村の劣情を煽る。
もう直ぐで、絶頂を迎える、と思ったとき。
『………………』
外から話し声が聞こえてきた。
「クソッ……」
我を忘れているアリスの口を火村が塞ぐ。
「んっ?……むぐっ……」
もがくアリスを抱きしめる。
「シッ……少しだけ我慢しろ……」
そういう火村の声も熱を含んでいて、火村自身が必死で自分を抑えているのが判る。
「んっ……」
それでも我慢できないのか、アリスが腰を揺らす。
「っく……おい……」
バレたらパニックになるのはアリスの方だと言うのに。火村がアリスの尻を軽く叩いた。
『―――……―――――』
『…………―――』
外の話し声はまだ続いている。どうやら祭りの実行委員が休憩がてらに散歩に来たらしい。
「っち……さっさといなくなれよ……」
話し声の合間に、激しい花火の音がした。さっきまで夢中で気がつかなかったけれど、どうやら花火はそろそろクライマックスのようだ。
「はっ……ひむらっ……」
アリスが甘えるように、火村にしがみ付く。火村はもうばれてもいいからアリスを思い切り突き上げたいと思う本能を必死で抑えながら、アリスの背中を撫でてやる。
『――――……・――――』
時間にすれば1分ほどだっただろうか。だが2人には1時間にも感じられるほど長かった。やっと話し声が遠のいたのを確認して、火村はアリスを寝かせると思い切り突き上げた。片足を肩に担ぎ上げて、上から抉るようにアリスを貫く。アリスも、中断されていた間に沸騰するほど熱くなった下腹の熱で火村を締め付ける。
「あっ……ひあぁっ……」
「っく…………・ふっ……」
頭の中が真っ白になる。ただ快感を追うことしか考えられない。本能に突き動かされて互いを食い尽くそうとするかのように貪る。
「ひっ……はぁっ……ああっあっ!」
「くっ……うっ」
アリスの内部が激しく痙攣し、火村を引き絞った。
アリスが達するのに時をおかず、火村もまたアリスの中に熱を注ぎ込んだ。
社殿の外に備え付けてあった水道で手ぬぐいを濯ぎ、アリスの身体を拭いてやる。汗と、体液とでべとべとになった身体をぐったりと弛緩させて、アリスは目を閉じている。ふわふわとした睡魔と闘っているのだろう。
「アリス。眠るなよ」
「……ん……」
「眠らせてやりたいのはやまやまだが、時間がない」
火村に腕を引かれて、アリスはぼんやりとした顔で起き上がった。
「待ち合わせまであと10分しかないんだ」
「まちあわせ……」
いい年した男のたどたどしい口調が可愛いなんて、俺も終わってる。そう思いながら火村はアリスを立たせる。
「あっ!ゆ、浴衣っ!」
コトの最中に浴衣を脱がされたことをやっと認識できたらしい。青い顔をしてあわあわしているアリスを火村が笑った。
「男物の浴衣くらい着せられるから大丈夫だ」
「そ、そうなん?」
「前にばあちゃんの旦那さんの浴衣を借りたときに教わったんだ」
下宿に来た一年目に、ばあちゃんに頼まれて近所の神社の夏祭りを手伝った。その時ばあちゃんの旦那さんの浴衣を借りたのだ。
「君の浴衣かぁ。君も今日着てくれば良かったのに」
「少し小さいんだよ、あの浴衣」
当時は長身だったというばあちゃんの旦那さんだけれど、流石に火村に着せると短い。ばあちゃんがギリギリまで裾を出してくれたけれどそれでもちょっと短かった。
「見たいなあ」
「惚れ直すぜ?」
「アホ」
軽口を叩きながらも火村は手際よく浴衣をアリスに着せてくれた。
「君はほんまに何でもできるなあ」
「男物は簡単なんだよ。帯びの結び方さえ覚えておけばいいんだ。……ほら、終わり」
ポン、と帯を叩かれて、アリスは少しよろけた。まだ脚がふらつく。支えてくれた火村をまだ潤んだ目で睨む。
「もう、無茶するからや」
「お前だって嫌がってなかったじゃねえか」
「…………もうこういうとこじゃやらんからな」
「へーへー」
アリスがどんなに決意しようと、相方がその気になっちゃえば無駄なんだけどね。
「さて、行こうか。少し遅れちまった」
アリスの手を引いて慌てて社殿から出る。既に花火は終わっていて、遠くで盆踊りの音が聞こえていた。少し気温が下がったようで、まだ火照りの治まらない身体に風が気持ちよかった。
濡れた手ぬぐいをブンブン振り回しながら歩く火村の後をアリスがテクテク着いて行く。火村のスニーカーは履き慣れなくてなんだか不思議な感じがした。
「大丈夫か?」
「なん?」
「足」
「ああ……うん」
なんか、そんな風に直接的に心配されると照れる。普段口を開けば皮肉ばかりのくせに不意に優しさを見せるなんて、ずるい。
参道に出ると途端に人が増える。普段はこんな時間には出歩けない子供たちも、祭りのときは結構遅くまで遊んでいる。火村から少し遅れて歩いていたアリスの前を子供たちが走り抜け、火村の背中を人ごみに見失いそうになる。慌てて追いかけようとしたところで、グッと腕を引かれた。
「あ、五嶋さん」
仲野ゼミの先輩の一人だ。
「アリスくん、遅い」
五嶋の後からヒョイとゼミの女主人、佐瀬水鳥が顔を出した。
「ご、ごめんなさい」
「おーい、火村―。こっちやでー」
五嶋の声に火村が振り返り、人ごみを掻き分けて戻ってきた。
「2人とも、遅刻」
「すいません」
火村はアリスの腕を掴んだ五嶋の手をチラッと見てからボソボソとそう言った。五嶋は慌てて手を離す。馬に蹴られるのはゴメンだ。ただでさえ弟のせいで色々と火村には睨まれているのに(「ハニー☆ハニー」参照)。
「花火、綺麗やったねー」
水鳥が火村に向かってそう言った。
「あ?……ああ、ええ、そうですね」
見てないけど。
「さて、遅くなったし帰ろうか」
どうやら火村とアリスが最後だったらしい。集まっていたメンバーがぞろぞろと歩き始める。
花火を観終えて帰る人が多いのか、駅は人でごった返していた。人に押されるようにして水鳥と火村の後をアリスは仲野ゼミのメンバーと話していた。
「うーん、あれやな。佐瀬さんは背ぇ高いほうやけど、火村と並ぶとやっぱり小さく見えるな」
隣を歩いていた井野に言われてアリスは改めて2人を見た。周囲がざわざわと五月蝿くて何を話しているのかは判らないけれど、水鳥が何かを話しかけ火村がそれにボソボソと答えているようだ。火村も水鳥もそんな気はさらさらないことはわかっているけれど、火村が美人と2人きりで並んでいるのはあまり楽しくない。ついさっきまで嫌だと言うほど火村の自分に対する愛情と言うか執着と言うか、そういうものを感じていたくせに。我ながら嫉妬深いな、とアリスは俯いて自嘲気味に小さく笑った。
「あれ?有栖川、草履履いてなかった?」
「ん?あー……」
井野に言われて顔を上げる。
「ははは。さては鼻緒で靴擦れできたんやろう」
「うー。平気やと思ったんやけど」
「火村の靴?」
訊かれてアリスはコクリと頷いた。
「ふんふん、優しいなあ、火村君は」
五嶋のわざとらしい言い方にみんな笑った。
人ごみを避けてホームの端の方に行く。先を歩いていた火村は喫煙コーナーで早速煙草を吸っている。祭りの会場では我慢していたのだろう。
「2人で何話してたんですか?」
アリスが訊く。
「内緒」
水鳥は笑みを浮べている。隣にいる火村はといえば、無表情で煙草を吸っていた。機嫌が悪いのかな?とアリスは一瞬心配になったけれど、どうやらそういうわけでもないらしい。これは意外に人見知りな火村のいつものポーカーフェイスだ。
アリスは火村の側に行った。
「水鳥先輩と、何話してたん?」
「……言うと怒るから言わない」
何それ。余計に気になるじゃないか。まさか、浮気?いや、それはないな……
「怒らんから言うて」
「そう言って怒らなかったことないじゃねえかよ」
「怒られるようなことなん?」
火村はアリスをじっと見て、それから水鳥を取り囲んでワイワイ騒いでいる仲野研のメンバーを見る。それからもう一度アリスを見た。
「うーん。まあ、他の奴らはわかんねえかな」
「何が?」
「連帯責任だと思うけどなー」
「やから、何?」
それきり、火村はのらりくらりとアリスの追求をかわしていて答えてくれなかった。
やがて電車が来て、みんなで乗り込む。電車の中はラッシュのように込んでいてとても話を出来るような状態じゃない。浴衣が崩れるのを気にして吊革につかまれなかったアリスを火村が抱えるようにして立っていた。
1人、2人とメンバーは降りて行く。「じゃあね」「またな」と短い挨拶をして車両を降りた五嶋は、窓の外から手を振っていた。そういえば、あの人は水鳥先輩のことが好きだったな。とアリスは思った。火村と並んで歩く水鳥先輩を見て、どう思っただろう。訊けないけど、訊いてみたい気がした。
「有栖川君は今日は火村のところに行くん?」
「そうですよ」
気がつけば、アリスと火村と水鳥の3人になっていた。
アリスが答えるよりも前に火村が答えた。水鳥が小さく笑う。
「…………ねえ、有栖川君」
「はい?」
後に立っていた水鳥がアリスの背中を突いた。
「なんです?」
「…………帯が」
「え?」
「帯の結び方が、さっきとちゃうで」
「………………え?」
アリスはバッと火村の顔を見た。
「…………ええ?」
火村はポリポリと首の後ろを掻いている。
「来たときは神田結びだったのに、今は貝の口や」
水鳥に飄々とそう言われてアリスはポカンと口を開けている。
「悪い、俺其の結び方しか知らねえんだ」
「お、お、お前ッ」
アリスは可哀想なくらいオロオロとしている。
歩き回っているうちに着崩れたから直してもらった、とでも言っておけばいいのに。と火村は思ったけれど、この先輩にはもうバレバレだから意味ないか。
「まあ、みんなは男の帯の結び方なんて知らへんやろうけどなー」
だったらアンタも知らない振りをしてくれればいいのに。火村の視線に水鳥が余裕のある笑い方で苦笑した。
アリスは気がついてなかったのだし、わざわざ知らせることもないじゃないか。
「有栖川君だけ知らないのは不公平やん?」
「…………」
「君は知ってたんか!?」
火村もなんだか違う気がしたのだけれど、ばあちゃんとの腕の違いかと思っていた。「貝の口」と呼ぶことすら知らなかったのだ。
「さっき歩きながら聞いた。ちょっと違うかなとは思ったけど」
「~~~~~~~!」
確信犯ではないらしいけど。でもやっぱり原因を作ったのは火村だし、火村が悪い!
「アホーッ!」
電車が速度を落とし、身体がゆっくりとかしぐ。アリスはその反動を利用して火村の腹にパンチを入れた。
「イテエな。殴るなよ」
「うっさい!」
「あははははは。まあ、喧嘩せんと、仲良くね」
ひらひらと優雅に手を振って水鳥は電車から降りていった。
「仲良くね、だってさ」
「できるか!」
「お前だってノってたじゃねえかよ」
浴衣が苦しいって言うからほどいてあげたのに。
飄々とそういわれてアリスは呻いた。
「君は、ホンマに、いっぺん、ちゃんと、世間体ってもんを学習してくれ……」
「心外だな。お前よりは知ってるつもりだぜ?」
「何処がや!」
「電車の中では静かにしましょう」
ギャアギャアと騒いでいる2人を尻目に、電車は順調に2人を運んでいく。目指すは火村の下宿への最寄り駅。
「まあ、夏だし。たまにはハメを外しても」
「君はたまにやないから問題なんや!」
ブーブーいいながらも大阪に帰る!なんて言わない。
これだから、いつも肉食獣に食べられちゃうんだけどね。