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2004年8月発行本より・パラレル・学生火村×先生アリス。R15くらい?

 翌日、約束どおりアリスの部屋に火村がやってきた。正直なところ、アリスは火村が本当に手伝いに来るなんて思っていなかったのだけれど。
 火村は思いの外手際がよく、設置されていた本棚はあっという間に埋められていく。本棚に入りきらない本は、ジャンル別にダンボールにつめて内容を簡単にまとめたメモを貼り付けていく。ジャンルの選別が出来るということは、何の本なのかわかっているということで、知識がなければ難しい。まして、アリスの蔵書はさまざまなジャンルに及んでいるから尚更だ。
「う~ん、やっぱり本棚足りへんなあ」
「どっかの部屋で余ってるんじゃないか?こっちの寮は空き室だらけだろ?」
「あ~……赤星先生に聞いてみるか……」
 いつの間にか火村のぞんざいの口調にも慣れてしまった。一通り片付け終わったところで、休憩にする。当たり前のように煙草を取り出した火村に、一応小言を言ってみるけれど、どうせ聞かないのはわかっているから、引越し中に欠けてしまった小皿を灰皿として提供した。
「ん?君何読んでるんや?」
 アリスがキッチンでお茶を入れて戻ると、床に座ってベッドに寄りかかった姿勢で火村が何かを読みふけっている。なんだろう、と覗き込むと、アリスが昨日の夜に書いていた原稿だった。
「あ……」
「これ、アリスが書いたのか?」
 プリントアウトした原稿を机の上に置きっぱなしにしていたのを見つけたらしい。
「う、うん」
「ふうん……この続きはどうなるんだ?」
「あっと驚く展開が待ち構えてるんや」
「気になるな」
「ほ、ホンマに?」
「アブソルートリー」
 その瞬間、花が開くようにパアッ、と笑ったアリスを見て、火村が目を見張った。
「…………」
「そしたら、続きが出来たら読んでくれるか?」
「あ?あ、ああ。見せろよ」
 素直に嬉しそうにしているアリスを火村が内心ちょっとドキドキしながら見ていると、アリスの部屋のドアがノックされた。
「はいっ」
 アリスがドアを開けると、赤星が立っていた。
「よう。片付けは終わったか?」
「え、あ、はい。もう殆ど……」
「あれ?有栖川って、煙草吸うのか?」
「え?」
 しまった、と一瞬顔をゆがめてからアリスはブンブンと首を縦に振った。これだけ煙草の匂いがするのだから、吸わないといったら不自然だ。
「え、ええ。時々……」
 アリス自身は吸わないけれどそう言うしかない。身体で部屋の中を隠そうとしたけれど、長身の赤星はアリスの頭の上から中を覗き込んだ。
「あ、やっぱり火村」
 ベッドに寄りかかる火村を見つけて赤星がズイズイと部屋に入ってくる。火村は赤星に見つかったのを気にもしないで片手を上げて挨拶した。
「よう」
「あ、あの……」
「やっぱりな~。この匂いキャメルだと思ったんだよ。有栖川がキャメルみたいなキツイ煙草吸うと思えないしさ~」
 一人慌てているアリスをまるで無視して、赤星は床に座り込んだ。
「火村、俺にもくれ」
「ん」
 赤星は平然と火村に煙草を強請った。
「ちょっと……赤星先生……」
「な~にそんなに慌ててるの。高校生だろ?煙草ぐらい吸うっての。ばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃ。なあ、火村?」
 ばれるって、この場合教師にばれるとやばいんだろうに。そしてここには教師が2人いるだろう。
「そう。この敷地の中で煙草を安全に吸えるのは教員寮だからな」
 どうやら赤星は火村(おそらく他の生徒も)の喫煙を黙認しているらしく、それを知っていて火村は昨夜あんな場所で煙草を吸っていたらしい。もっとも、アリスだって赤星を責められやしないけれど。
「それにしても、早速男を連れ込むってのは手が早いなあ、アリスちゃん?」
「ちがっ、違うっ。部屋の片づけを手伝ってもらっただけやっ。生徒の前で変な事言わんといてください」
「しかも火村とはねえ……いやあ、面食い面食い」
 顔を真っ赤にして怒るアリスを火村がグイっと引き寄せた。
「そう、だからあんたは手を出すなよ」
「こらっ、火村までっ」
 胡坐を組んだ膝の上にアリスを乗せて、にやっと笑った火村に赤星もニヤリと笑い返す。
「残念、高校生の頃から狙ってたんだけどな」
 悪ノリを続ける二人に、アリスはぐったりと肩を落とした。


月曜日。
アリスは多少緊張しながら教室に向かう。
午前中は1年生と2年生の授業だったので、まともに授業を出来た。問題はこれから行く3年生の特進クラスだ。
「あ、アリスちゃんや」
 教室に入るなり、そう声が上がった。
「ほんまや。アリスちゃんや」
「う……アリスちゃんって呼ぶなっ」
 真っ赤な顔で怒るアリスに笑い声が上がる。
「ええと、今日から中浦先生に代わって国語の授業を担当します、有栖川です。よろしく」
 なんとか気を取り直してアリスは話し始めた。
「と……とりあえず、みんな自己紹介してもろてええかな。名前と顔が一致してへんから」
 生徒を見回すと、一番後ろの席に火村がいるのに気がついた。特進クラスとは恐れ入った。どうやら素行は悪くても頭はいいらしい。アリスと目が合うと、ニヤリとあの独特の笑みを浮かべた。
 3年の特進クラスは、英都の中でも特に学力が優秀な生徒が集められる。そして、大抵生意気な生徒がそろっているのだ。内職や夜勉強するための居眠りなんてものは当たり前で、授業なんてあってないようなものだし、それをあえて注意しないのも暗黙の了解となっている。
 まだ若いアリスなんて、格好のからかいの的だ。
 一通り自己紹介が終わったところで、生徒の一人が声を上げた。
「センセ~、英都の出身なんやろ~?」
「なあなあ、赤星先生を追いかけてきたってホンマなん?」
「は?はぁぁぁ?」
 突然言われた言葉に呆然とする。
「だ、誰がそんなこと言ったんや!」
「赤星先生」
「うがぁっ!チガウッ!」
 真っ赤な顔をして怒っているアリスをみて、生徒たちはニヤニヤと笑っている。
「もうっ、へんな噂広げんといてやっ」
「広げてるのは赤星先生やで。他のクラスでも言うてたらしいから」
「教員寮で2人っきりのラブラブ生活やって」
 わははははは、と笑われてアリスはフルフルと震える拳を教卓にたたきつけた。
『あんの変態~~~~』
 流石に生徒の手前口に出すことはしなかったけれど、内心今すぐ赤星のいる教室に殴り込みに行きたいくらいだ。
「なんや、違うんか?」
「赤星先生の片想いやな」
「アリスちゃん、もし赤星先生に襲われたらちゃんと声あげるんやぞ!」
「すぐ助けに行ったるからな!」
「あははははは……」
 生徒たちのからかいの声に、もはや抵抗する気も起きない。乾いた笑い声を返すのがやっとだった。
 
 
 広い校舎の、西側にある図書館。英都の図書館は大学並みの蔵書を誇る図書館だ。
 両親を同時に亡くしたばかりのアリスは、放課後をこの場所で過ごすことが多かった。優秀な生徒の多い英都はかなり遅い時間まで図書館を利用することが出来る。当時は叔父の家から通っていたアリスは、家に帰るのが少し憂鬱で、いつも遅くまでこの図書館で過ごしていた。叔父一家はアリスをとても可愛がってくれていたけれど、年頃の異性が3人もいる家はやっぱりちょっと居心地が悪かったのだ。
 図書館の、一番奥の一番端の机。アリスはいつもそこで原稿を書いていた。
 そこに座って周りを見回す。懐かしい本の匂い。アリスの部屋にも本はたくさんあるけれど、図書館はもっと違う独特の匂いがする。
 頬杖をついてぼんやりと外を見る。
「アリス?」
 名前を呼ばれて顔を上げると、火村が立っていた。昨日と違って眼鏡をかけている。
「あ、火村……」
「こんなところで何してるんだ?」
「ん~……懐古の情に浸ってたんや」
 クスッと笑うと火村はアリスの隣の席に座った。机の上に分厚い本とノートや筆記具を置く。
「勉強してたんか?」
「ん?ああ……まあ」
 火村が持っていた本をパラパラとめくって、アリスは眉を顰めた。
「随分と難しい本を読んでるんやね」
「そうか?」
 高校生が読むような本じゃない。大学の授業で使うような専門書だ。
「ひょっとして、火村って頭いいんか?」
「なんだよ、そりゃ」
「ん~……素行が最悪やから」
「そりゃ御期待に沿えず残念。アリスや赤星以外の前じゃ、優等生なもんで」
「まあ特進クラスやもんなあ」
 だらしなく緩められたネクタイや第2ボタンまで開けられたシャツは品行方正とはいえないけど、制服を着た火村は見ようによっては優等生に見えないこともない。
 昨日赤星が「面食い」と冗談で言っていたけれど、確かに火村は男前な顔をしている。眼鏡をかけていても野暮ったい感じにならずに理知的に見えるのはハンサムな証拠だと誰かに聞いた気がする。
「火村さんっ」
 呼ばれて振り向くと、森下が立っていた。
「あ、先生……こんにちは」
 森下は火村が一緒にいるのがアリスだと気がついてペコリと頭を下げる。
「なんか用か?」
 森下は鞄から紙袋を出した。
「あの、これ……頼まれてた雑誌です」
「おう、サンキュ。幾らだった?」
「いえ、兄貴が送ってくれたんでお金はええですわ」
「いいのか?悪いな……じゃあ今度なんかおごるよ」
「わぁ、有難うございます」
 森下は嬉しそうに笑った。
「火村さんにおごってもらうなんて、みんなに自慢できますわ」
「なんだよ、大げさだな……」
 苦笑しながら火村が紙袋から取り出したのは洋書の雑誌だった。あまり英語が得意じゃないアリスには表紙を見ただけでは良くわからないけれど、どうやら何かの専門誌らしい。
「あの、先生は火村さんとお知り合いなんですか?」
「ん?一昨日から知り合い。付き合いの長さは君とのほうが長いで?」
 2時間くらいだけど。
「あ、そうなんですか?」
 少し驚いた顔をした森下にアリスが首を傾げる。
「何?」
「いえ……。あ、じゃあ僕は戻りますね」
 パタパタと走っていく森下を見送って、さて、と火村を振り返る。
「なあ、まだここいるんか?」
「ん~……?」
「俺もう戻るけど……」
「ん……もうちょっといろよ」
 視線は雑誌に向けたまま、立ち上がりかけたアリスの腕をつかんで座らせる。
「…………ええけど」
 徐々に暗くなる空。既に図書館には生徒の姿はない。
司書もさっきアリスたちに声をかけて帰って行った。
「なあ」
「ん~?なんや?」
 ペラリ。火村が雑誌をめくる音が響く。
「冗談だよな?」
「何が?」
「赤星の……」
 アリスは目を見開いて火村をマジマジと見た。
「あったりまえやろ?」
 火村は雑誌から目を離さず、小さな声で「そっか」と言った。
「なあ、もう戻らんか?食堂閉まってまうよ」
「ああ……」
 立ち上がったアリスを、今度は引き止めずに火村も立ち上がった。
 テクテクと後ろからついてくる火村を背中で感じて、「なんだかかわええなあ」とアリスは思ったけれど、口には出さなかった。


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