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2004年8月発行本より・パラレル・学生火村×先生アリス。R15くらい?

 金曜日。
 火村は5時限めの授業を受けながら、アリスのブルーバードが駐車場の方から出てくるのを見た。
何度か乗せてもらったことがあるけれど、随分くたびれた車だ。やっとのことで走っている、という感じだけれど、火村はアリスのブルーバードが結構好きだったりする。一所懸命に走る様が、なんだか授業中のアリスを思わせるのだ。
 そのブルーバードが、校舎から正門へと続く道の途中で止まった。教員寮から通じている小道と合流している場所だ。しばらくして、小道に赤星の姿が現れた。小型のスーツケースを持っている。赤星もアリスも、金曜は4時限で授業は終わりだ。
 車から出てきたアリスと、少し言葉を交わしてから荷物をトランクに入れて2人は車に乗り込んだ。
「ふうん……」
 聞こえないくらい小さな火村の声に、隣の席の奴が気がついたらしい。「なんだ?」というように火村をチラリと見たけれど、すぐに興味をなくしたように参考書に目を落とした。
 2人を乗せた車は正門を出て、やがて姿が見えなくなった。
 赤星がアリスを力ずくでどうにかしようと思っているとは思えない。プライドの高い男だから、嫌がる相手に手を出すことはない。だけど、相手が嫌がっていなければ?
 そういえばアリスが前の学校を辞職した理由をまだ聞いていなかった。ジョージの話では女子生徒のストーカー行為に悩まされて辞めたということだったけれど、もし、アリスが赤星のいる英都に来るために辞めたのだったらどうだろう?でも、それなら火村をこれほど頻繁に自室にいさせるだろうか?せっかく赤星と2人きりの寮生活なのに、邪魔者をそのまま置いておくか?でも、火村は遅くても日付が変わる前には学生寮に戻っている。それからだって、一緒にいることは出来るのだし。
「う~ん……」
 火村の唸り声に、今度は教師が気がついた。
「火村、何か質問か?」
 珍しい、という表情を隠しもしないで、化学教師が聞いてきた。
「いえ、なんでもありません」
 火村が軽く頭を下げると、教師は「そうか」と言って殆どの生徒が聞いていない授業を再開した。
『早めに手を打ったほうがいいのか……』
 くるくると指先でシャーペンを回しながら、火村はアリスのことを考える。他の生徒に比べたら、自分は格段にアリスと親しい。自分よりもアリスに近い生徒はいないはずで、それを考えればアリスが生徒と他の生徒とどうこうなるとは思えない。やはり悪い虫になりえるのは赤星ということだ。(アリスが男性であり、ここが男子校であることにはあまり重点を置いていないようだ)
 火村は、自分自身がアリスにとって悪い虫であることに気がついていない。
 

 夕食時、アリスは食堂に現れなかった。火村が一人で食事をしていると、森下と片桐がやってきた。
「火村さん。一人ですか?珍しいですね」
「アリス先生どうかしたんですか?」
 2人は火村の向かい側の席に並んで腰掛けた。
「赤星が出かけるって言うんで、駅まで車で送っていった」
 カレーを食べながら火村はそう答えた。
「あ、そういえば、5時限目の体育のときアリス先生の車が出て行くの見ました」
「5時間目?もう7時やんか……駅まで送るにしては随分と遅いやないですか」
 それは、火村も気になっていることだ。どんなに時間がかかったって駅まで往復1時間あれば十分だ。
「大丈夫ですかねえ……アリス先生ちょっと抜けてはるし……」
「ねえ、火村さん?」
 2人して、火村の顔を覗き込んでくる。
「知らねえよ。俺はあいつの保護者じゃねえんだから。買い物でもしてんだろ」
 大人なんだから、ちょっとくらい帰りが遅いからって大騒ぎすることじゃない。
「まあ、そうですけど……」
 不機嫌そうな火村の様子に、その後2人はアリスのことは口にしなかった。
 食事を終えて、寮の部屋に戻った。
 ベッドに寝転んで読みかけの本を読む。この時間にこの部屋にいるのは久しぶりだ。
 シャワーを浴びた後、窓から駐車場を見たけれどアリスの車はまだ戻ってきていない。もう11時をまわっている。
「……ったく、なに夜遊びしてるんだよ」
 この時間じゃもう飲み屋くらいしかやっていない。一体何処で何をしているというのだろう。
 1時を過ぎ、ベッドに入る前にもう一度駐車場を見たけれど、アリスのブルーバードは戻ってきていなかった。


 翌朝、火村は目を覚ますとまず駐車場を見た。アリスの車が戻ってきている。昨日の夜遅くか、もしくは今朝か。アリスが帰って来たのは間違いない。
 顔を洗って食堂に行く。アリスの姿はなかった。今日は土曜日で、授業はない。帰りが遅かったなら朝食は抜くつもりなのかもしれない。
 火村はアリスの部屋に行こうとして、止めた。
 朝帰りなんてことをしたアリスを、権利もないのに詰ってしまいそうだったからだ。
 それに、週末は殆どアリスの部屋で過ごしていた火村が訪れなかったら、アリスが少しは気にしてくれるかも、と少し期待もした。
 午前中は部屋で本を読む。ジョージに頼んで取り寄せてもらったイギリスの犯罪学の原書だ。専門用語が多くて読むのが大変だが内容は面白い。それに英語の勉強にもなる。辞書を引きながらの読書に、つい熱中していたらしく気がつけば午後3時を過ぎていた。
「…………チッ」
 結局、アリスからは何の連絡もない(当たり前だけれど)そもそも、アリスは学生寮にある火村の部屋を訪れたことは一度もないのだ。火村がアリスに懐いていることは教師を含めてみんな知っているけれど、それでも特定の生徒の部屋を教員が用もなく訪れるわけにはいかない。
 火村は読み終えた本をベッドに放り投げた。こうなれば、今日は一日読書をしてやる、と学生らしい自棄の起こし方をする。時間はもう夕方に近かったけれど、まだ外は明るく気温も高い。校則では校内では基本的に制服着用だけれど休日だしいいか、と火村はハーフパンツにTシャツを着て、首にタオルを巻いた格好でふらふらと図書館へと向かった。
 土曜日でも図書館は開館している。司書は休みを取っているけれど、宿直の教員に頼めば書庫にも入れる。
 土曜の夕方というせいもあり、図書館には人気がなかった。埃っぽい空気が、夏の暑さを含んで熱を持っている。火村は窓を開け、空気を入れ替えながら本を選んでいた。特に探している本があるわけではなく、ただぼんやりと本棚に並ぶ文字を目で追う。
 ブラブラと歩き回っているうちにミステリの棚にたどり着き、アリスの小説のことを思い出す。
 単行本にはなっていないといっていたけれど、以前雑誌に掲載されたことがあるという。老舗の中堅出版社から出ているその雑誌は、ミステリ雑誌にしては知名度がある雑誌なので、もしかしたら書庫にバックナンバーがあるかもしれない。
 火村は書庫の入り口まで来て、足を止めた。だめだ、書庫に入るには一度職員室まで戻って鍵をもらってこなければいけない。特に急ぎなわけでもないし、月曜日に出直せばいいか、と踵を返しかけて、書庫の入り口が僅かに開いているのに気がついた。
「?」
 もしかしたら、自分よりも先に来た人が書庫にいるのかもしれない。だとすれば手間が省ける。
 火村はドアを開けた。
 地下にある書庫は、貴重な書籍も置いてあるため、日焼け防止のため窓がない。換気用の空調と、万が一空調に不備があったときのための小さな換気口があるだけだ。
 書庫は上の図書室と違って空気が冷たい。
 火村は壁にかけてある配置表で小説雑誌のバックナンバーの棚を確認してそちらに足を向けた。火村が行こうとしている棚のほうが明るい。誰かがいるのだろう。火村は驚かさないようにわざと少し大きめに足音を立てて歩いた。
 書庫の右端の方にある、文芸書籍の棚。火村は目的の棚を見つけると、その列に足を踏み入れた。
「アリス?」
 アリスは閲覧者用の椅子に腰掛け、貪るように本を読んでいた。出勤日ではないので、アリスもいつも学校にいるときには着ているスーツではなく、TシャツにGパンというラフな格好だ。よっぽど集中しているらしく、火村が声をかけても気がつかない。
「アリス」
 今度は少し大きい声で呼んでみると、ビクリッと肩を震わせてアリスが顔を上げた。
「ひ、火村……びっくりさせんといてや」
 余程集中していたのだろう。目を丸くして火村を見ている。
「別に忍び足で歩いたわけじゃないぜ?声だってかけたし」
「そ、そう?どないしたん?土曜なのにこんなとこ来て」
「別に……」
 アリスの小説を見たくて探していたとは、恥ずかしくて言えない。火村はふい、とそっぽを向いた。
「アリスこそこんなところで何してんだ?」
「ん?赤星先生にな、俺が前から探しとった本を前に書庫のリストで見たことがあるって聞いて、それで探しに……何?」
 赤星と聞いて、火村の眉がグッと寄ったのを見て、アリスが首をかしげた。
「なあ、昨日どうしたんだ?随分と帰りが遅かったみたいけど」
「昨日?あれ、赤星先生を送りに行くって言わへんかったか?」
「駅まで送るって言うのは聞いたけど」
 ふてくされた顔をした火村をみて、アリスが噴出した。
「なんや~?ヤキモチかぁ?かわええなぁ、火村君は」
 ニヤニヤと笑うアリスを見て、火村がムッとする。
「心配してるんだろ。アリスはボンヤリしてるから、もしかしたら赤星が妙なまねをするんじゃないかって」
「ミョウナマネ?赤星先生が俺に何をするっていうんや?」
「だから……妙なまねだよ。押し倒されたりでもしたら、どう見たってアリスに勝ち目はないからな」
 今度はアリスがムッとする番だった。
「赤星先生は、そりゃ、ちょっと変わってて、すぐセクハラっぽいこと言ってくるけど、でも本気なわけないやろ」
「どうだか」
「俺は男や。赤星先生はそんな人とちゃうよ。それに赤星センセは嫌がってる相手に、しかも男に手を出すほど相手に不自由してへんやろ」
 それは、火村も考えたことだ。プライドの高い赤星がアリスの同意なしで強引なことをするとは思えない。
「男だからなんだって?ここは男子校だぜ?別に珍しくもねえよ。ふん、やけに赤星を庇うんだな。確かに赤星は嫌がる相手には手を出したりしないだろうさ」
 挑発的な物言いに、アリスの眉が釣りあがる。火村は自分が失言をしていることに気がついたけれど、それでも口が勝手に言葉を吐き出していく。
「どういう意味や?」
「相手が嫌がっていなければ、話は別だって言ってんだよ」
 火村が言うのと同時に、火村の頬がパンッと鳴った。
「…………」
「あっ……す、すまん、た、体罰……」
 殴ってしまったことを殴られた火村以上に驚いている顔をして、アリスは慌てて火村の頬に手を当てた。
「ごめん、つ、つい……」
 おろおろと見上げてくるアリスの手を火村がギリリッとつかんだ。
「イタッ……」
「なあ?赤星と何もなかった?」
「だからっ、そんなんとちゃうって言うてるやろ」
 そもそも、初めは赤星にアリスが何かをされたりしないか心配をした、とかそういう話だったはずなのに。いつの間にかはまるでアリスの浮気を問い詰めるかのような話になっている。
「だ、大体、万が一赤星先生と俺がどうにかなっていたとしても、火村にそんな風に責められる覚えはないで」
 ギュッと握られた手首の痛みに顔をしかめながら、アリスはそう言い返す。
「…………へえ?」
 火村は握ったアリスの手を、グイっと引き寄せた。よろけて倒れこんできたアリスを抱え込む。
「そういうこと、言えるんだ?」
「な、なに?」
 アリスの髪をつかんで、顔を上げさせる。すぐ側にある火村の顔をアリスが怯えた顔で見つめた。
「アリスはさ、本当に気がついてないのか?」
「…………」
「それとも気がついていない振りをしている?」
「…………何に?」
 震える声を絞り出して、それでも目をそらさないのは大したものだ。火村は唇の端をクッと引き上げて笑った。
「何に、だと?」
 アリスの怯えた瞳に、体中の血が、沸騰するかと思った。

「ひ……火村っ!やだっ……」
 背後から抱きしめて机に縋らせ、アリスのモノを指先で愛撫する。アリスにはサイズが大きいGパンの中で火村の右手は不自由なく動き回り、爪先で形をゆっくりとなぞられて、アリスの膝が崩れ落ちた。
「ほら、しっかりしろよ、先生。大人なんだろう?」
 シャツの中に左手を入れられる。抵抗しようともがいても火村の力は緩まない。首筋に歯を立てられてアリスが悲鳴を上げた。
「声上げたら、誰か来るかもしれないぜ?」
 耳元で低くそう言われて、アリスは悲鳴を飲み込んだ。土曜日の夕方の書庫に来るような物好きはこの学校にはアリスと火村くらいしかこないだろうけれど、それでもやっぱり怖い。
 声を耐えるアリスに火村が喉でくくっと笑った。シャツの中を滑らせた指を胸元の突起に這わせてきゅっとつまむ。
「そう、それでいい。いい子だな、アリス先生」
「馬鹿に……しとんのかっ……」
 シャツの中から火村の手を引き抜こうと爪を立てる。火村の腕に紅い筋が走った。気にせずに愛撫を続ける火村の爪が、突起を軽く引っかくと、アリスの口から小さな声が漏れた。
 アリスには大きすぎたGパンはいつの間にかずり落ちている。火村が下着をひき下ろすと、外気に触れたアリスの熱がフルリと震えた。
「う……や、やだっ……」
「なんでだよ、前にもしたことあるじゃないか」
 掌でアリスを包み込んで、先端を指で強く擦ると、膨れ上がった先端からタラタラと液が零れ始めた。
「こっち向けよ」
 力の抜けたアリスを仰向けに机の上に押し倒し、圧し掛かる。火村の腹でモノが擦られて、アリスは呻いた。
「まだ行くなよ、センセ。大人の我慢ってのを見せてくれよ」
 アリスが達ってしまわないように根元を握る。
「あ・・うっ……」
 シャツを捲り上げて脱がせると胸に吸い付く。舌で突起を転がしながらアリスを握った手を緩々と動かすと、アリスが火村のシャツにしがみついてきた。
 声を出すまいとかみ締めて紅くなった唇を火村が舐め上げると、びくっと怯えた瞳で見上げてきた。
「も、やだ……止めてくれ……いやや」
 力なくそう呟いたアリスに、深く口付けながら、火村はそっとアリスの双丘に指を這わせた。
「ん……あうっ……」
 力の入らない手で、それでも一所懸命押し返そうとするアリスを、火村は目を細めて見つめた。
 それでも止める気はない。ここで止めたらアリスはもう自分を部屋にも入れてくれなくなる。其の前に、アリスを自分のものにしなくては。
 ゆっくりと、双丘の狭間を撫でる。胸をいじっていた唇を徐々に下に下ろしていく。わき腹の柔らかい部分にキュッと吸い付くと、白い肌に紅い欝血が現れた。
「…………」
 自分のものだという刻印に気を良くした火村は、更に腰骨の辺りをベロリと舐め上げて、今度は太股の内側に吸い付いた。
「ひ……むらっ……?」
「気持ちよくしてやるよ。この前よりも」
 火村は、ビクビクと震えるアリスの熱の先端にチュッと口付けてから、ゆっくりとそれを口内に導き入れた。
「う……あっ……ああっ……いややぁっ・・」
 慌てて火村の髪に指を絡めて、引き剥がそうとしたけれど、達する寸前まで追い詰められているアリスの指先には、全然力が入らない。いたずらに火村の髪をかき混ぜるだけだ。
 クチュクチュとわざと音を立てながら口から出し入れする。自然と足を閉じてしまうらしく、太股で火村の頭を挟みつける。柔らかい感触に火村はアリスを加えながらニヤリと笑みを浮かべた。
 一旦口から出したアリスのモノを、下から舐め上げる。チラリとアリスの様子を見ると、目を瞑って快感に耐えていた。
 双丘を彷徨っていた指先に、前から流れてきた唾液と、アリスからあふれて来た液体を絡めて、アリスの後菊に這わせた。何度かなぞった後にゆっくりと先端をねじ込む。
「うあぁっ……あ、あ、いややっ……」
 今まで触れられたことのない場所に触れられて、アリスが起き上がる。
 ガツッと蹴られて火村の身体がアリスから離れた。
「いってぇなあ……」
 怯えて机の上に乗りあがり、必死で壁際に逃げるアリスの足をつかんで引き戻す。
 暴れるアリスを力ずくで押さえつけて、足を開かせた。
「大人しくしてろって言っただろうが」
 髪の毛をつかんで顔を上げさせると噛み付くようにキスをしながら足の間に身体を押し込む。立ち上がったモノをアリスに押し付けた。
「お前が暴れるからだからな。痛くても我慢しろよ」
「火村、もう止めてくれ。頼むから……ほんまに、もう、止めたって……」
 引きつった顔で哀願するアリスを無視して、火村は腰を推し進めた。碌に愛撫も受けていない上に、おそらくは男に抱かれたことなんてないだろうアリスの蕾は、容易には火村を飲み込もうとはしない。無理矢理押し入れようとして、アリスが悲鳴を上げた。
「ひっ……いた……痛いっ……やぁっ……」
「ちっ……声……」
 静かな図書館の地下は声が響く。ドアは閉めてきたけれど誰かに聞かれたらまずい。アリスの口元を掌で覆った。
 怯えきったアリスの瞳からは痛みのためか、恐怖のためか、ボタボタと涙が零れていた。
「…………そんなに嫌かよ?」
「…………」
 アリスは震える手で火村の手を口から引き剥がした。
「なあ……アリス……そんなに、俺がいやか?」
「…………君が嫌とか、そういう問題と、ちゃうやろ」
「赤星ならいい?」
「アホ言うな。誰でもお断りや。無理矢理なんて」
「無理矢理じゃなければあいつとするのかよ」
 怒気の篭った声に、アリスが火村を睨みつけた。
「なんでやっ!……なんでそんな風に言うんや」
「…………」
「気づいてないやと?……馬鹿にすんなや。なんぼなんでも……そこまで……鈍くないっ」
 しゃくりあげながら、アリスがそう言った。
「気づいてへんわけ……ないやろう……」
「…………」
 僅かに身を引いた火村を押しのけると、アリスは机から降りて脱がされた服を拾って着込んだ。
「アリス……」
 くるりと振り返ったアリスは、怒っているような、泣いているような、奇妙な表情をしていた。


「で、なんで急にあんなことしたん?」
「…………昨日帰って来なかったから……」
 アリスの部屋の床に正座させられた火村は、ベッドに座って腕を組むアリスの視線を痛いほど感じていた。
「子供やあるまいし、なんで朝帰りしたくらいでこんなめにあわされなあかんの?本気で赤星先生が俺に手を出すとでも思ったんか?」
「…………」
 思ったけど、火村は何も言わなかった。言ったら余計に怒られそうだから。
「赤星先生にはな、綺麗な彼女がおんねん。朝井さんっていう京都のミステリ作家。結構有名な人やで」
「そうなのか?」
 実を言うとアリスだってそれは昨日知ったことだったのだけれど。
 

 駅で赤星を送ったところ、事故で電車が止まっていた。迂回の電車では間に合わないからと、アリスが空港まで送ることにしたのだ。翌日は土曜日で授業もないから遅くなっても構わない、と。
 空港まで送ってみると、赤星の恋人だという女性が待っていた。ミステリ作家のなかでは売れっ子の部類に入るだろう女流作家だ。しかも、嬉しいことに単行本も出ていない駆け出しのアリスのことを知っていた。
「赤星の知り合いやからって気ぃ使ってんのとちゃうで。作家仲間から期待できる若手が出てきたって教えてもらったんよ」
 アリスのデビューのきっかけになった賞の選考委員を朝井女史の友人がやっていたそうだ。
 それで赤星の飛行機を見送ったあと、朝井を京都まで送り、お礼にと食事をご馳走になったのだ。で、意気投合した2人は其の後当然のごとく飲酒した。
 朝井女史と別れたのは11時ごろだったのだけれど、飲酒した状態で車を運転するわけにもいかず、アリスは近くのビジネスホテルに泊まったのだ。


「今度は朝井さんのこと疑ってるんとちゃうやろな」
「…………」
 ギクリと顔を強張らせた火村をアリスが睨みつける。
「疑ったんかいっ!」
 ポカッと痛くもない強さで頭を叩かれて、火村は慌てて頭を振る。
「う、疑ってない」
「大体な、そういうのって赤星先生にも、朝井さんにも失礼や」
「はい……」
 アリスはうなだれる火村の頭を指先で小突いた。
「阿呆ゥ」
「……おっしゃる通りで」
 アリスは、言いたいことは山ほどあるけど、と前置きしてから口を開いた。
「年の差がなくても、男と女だったとしても、強姦なんて絶対に許されへんやろ」
「…………そうだな」
「俺は君を、相手の意思を無視して踏みにじるようなまねをするような奴やないと思うてた」
「…………」
「それは買いかぶりか?」
「…………」
 応える言葉が見つからない。こんな風に怒られるよりもボコボコに殴られた方がどれほど楽かわからない。
「でもな、俺も悪かった。知らん振りして君に期待もたせるようなことをするべきやなかった」
 そういって「ゴメン」とアリスは頭を下げた。
「アリス……俺がアリスのこと好きだって……」
「気づいとったよ。でも、俺は教師やし……。初めて君が触れてきたとき、マズイなって思うたんやけど、でも、最後までせえへんって言うたから……君は若いし、ソウイウコトしたい年頃やろう?やから、さ、触るくらいならええかなって……」
「…………」
「でも、ホンマゴメンッ。あの時ちゃんとダメやって言うべきやった。つ、付き合ってもおらんのにあんなことしたらあかんかった。ほんまに、ゴメン。俺、教師失格や……」
 付き合っていない。
 そうだ。おそらく学内でアリスと一番親しいのは火村だけれど、でも、それでも付き合っていたわけじゃない。アリスは自分のものじゃないんだ。わかってたけれど改めてそう言葉にされて、火村は考えていた以上に自分がショックを受けていることに気がついた。
「……じゃあ、それなら、アリスは他の奴がアリスを好きで、それで、最後までしないから触らせてくれって言ったら、触らせてたのか?」
「それはちゃう。他の子に触られるのはゴメンや」
「じゃあ、どうして俺にはさせてくれたんだ?」
 首をかしげた火村に、アリスは大きなため息をついた。
「君は、頭は俺よりええのに、案外鈍いな」
「…………」
「宿題や」
「え?」
「宿題。どれだけ時間がかかってもええから。ちゃんと自分で答えを出しなさい」
 そしてアリスは火村に学生寮に戻るように言った。


 それから半月。
 学校内でのアリスは、火村と距離を置くわけでもなく、以前と変わらない態度を続けた。
 火村のほうは、相変わらずアリスから出された宿題を解くことも出来ずにただ視線でアリスを追い続けた。表面上ではいつもと変わらない。相変わらず「ちょっと生意気だけれど成績優秀な優等生」という態度のまま。ただ、以前と変わったのは教員寮のアリスの部屋を訪れなくなったことぐらいだ。ただ、視線だけがアリスを追い続け、緩やかにその想いを重ねていく。
 期末試験も終わり、あとは終業式を残すのみ。それを終えれば夏季休暇になる。寮生でも気の早い生徒は既に帰省の準備を終えている。
「ヒムは実家に帰らないのですか?」
「あ?帰るよ、寮が使えない時は」
 学生寮はお盆の前後1週間以外は使えることになっているから、火村はギリギリまで寮にいるつもりだった。
 飛行機のチケットの都合でみんなよりも1日早く帰省することにしているジョージが挨拶に火村の部屋にやってきた。
「ジョージは夏はずっとイギリスで過ごすのか?」
「いいえ。そんなもったいないことしませんよ。森下君や片桐君が夏祭りに誘ってくれました。お盆のあと寮が使えるようになったら戻ります」
 高校を卒業したらイギリスに帰国する予定のジョージにとって、今年は日本での最後の夏になる。
「文化祭の準備もありますね」
「ああ……そうか」
 9月の終わりには英都祭がある。その準備のために8月の終わりごろから学校に来る生徒がかなりいる。
「気をつけて帰れよ」
「はい。有難う。ヒムも……アリス先生と早く仲直りするべきです」
「…………ああ」
 詳しい事情は話していないけれど、聡い友人はここのところ自室で過ごしている火村を見て「何かあったらしい」ということには気がついているようだ。
「夏祭りはヒムとアリス先生も一緒に行きましょう」
 そういって、ジョージはイギリスへと戻って行った。


 ジョージを見送って、火村はブラブラと体育館に向かった。生徒たちはもう終業式に向かったらしく、校内には人影がない。
「こら、火村。何ダラダラ歩いてるんや。終業式始まってまうよ」
 背後からポン、と頭を叩かれて振り向くと、アリスがいた。
「アリス」
「ん?」
「……夏祭りに行かないか?」
「夏祭り?いつ?」
「八月の後半」
「ああ、森下君たちも行くって言うてたやつかな?けっこう大きいやつやんな」
 アリスが高校生の頃にも、友だちと一緒に行った記憶がある。
「だめか?」
「…………ええよ」
 振り返ったアリスはクスッと笑った。
「なんや君、らしくない顔しとるなあ」
「悩んでますから」
「あはははは。悩める青少年か」
 笑いながら火村を追い越したアリスの腕を、グッとつかむ。
「あのさ」
「……なんや?」
「好きだ。俺と、付き合ってくれないか?」
「…………」
 目を丸くしているアリスと、丸々30秒程見詰め合ってから、火村は肩を落とした。
「ダメか?……正解だと思ったんだけど」
「……正解?」
「宿題の答え」
 ああ、と納得したらしいアリスは破顔した。
「君な、こんな場所で言うこととちゃうやろ」
「どうせ誰も聞いてない」
「ったく……。授業のときは宿題なんて真面目にやらないくせに」
「重要の度合いの問題だよ」
 火村は真面目な顔で答えた。
「…………それで、ダメか?」
「ええよ」
 あっさりと答えたアリスに、今度は火村が驚く番だった。
「い、いいのか?」
「うん」
「…………じゃ、じゃあ今夜部屋に行っていいか?」
「……………………アホやなあ……君」
 アリスは眉を下げてため息をついた。
「さて、さっさといかんと、ホンマに終業式遅れてまう」
「おい、アリス……」
 返事をしないまま歩き出したアリスの後を、火村が慌てて追いかける。
「部屋に来るのはええけど、させたらへんよ」
「え……ええっ!?」
「やって俺、先生やから。君が卒業したらな~」
「そんなに待ってられねえよ……」
「我慢我慢。大いに煩悶したまえ、青少年よ」
 あっはっはっは。
 ご機嫌で笑うアリスの後を、とぼとぼと火村は付いていった。

「卒業まで後半年か~……」
 果たして、火村はそれまで我慢できるのか!?

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